大阪大学らが酵素処理細胞外小胞「SPLEVs」を開発、サイトカインストームを抑える脂質応答を発見
大阪大学、東海大学、東京大学、筑波大学などの研究グループが、肝細胞由来の細胞外小胞を酵素で処理した「SPLEVs」が、動物モデルにおいて重症の炎症反応を抑える効果を持つことを報告した。
研究グループは、SPLEVsが炎症を鎮める脂質を大量に誘導する現象を「リピッド・カウンターストーム」と名付け、関与する脂質代謝物を特定するとともに、人工的なリポソームでも同様の効果を再現したと発表した。
酵素処理した細胞外小胞が炎症を抑制
大阪大学微生物病研究所の幸谷愛教授らの研究グループは、東海大学、東京大学、筑波大学などとの共同研究により、肝細胞由来の細胞外小胞(EVs)を分泌型ホスホリパーゼA2(sPLA2)で処理した「SPLEVs」が、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の動物モデルにおいて強力な炎症抑制効果を示したと発表した。SPLEVsを静脈内投与したところ、間葉系幹細胞(MSC)由来の細胞外小胞と比較しても、肺への好中球の浸潤や血中の炎症性サイトカイン(IL-6、TNFα)をより強く抑え、組織炎症スコアの低下が確認されたという。
解析の結果、SPLEVsは免疫細胞ではなく肺胞を構成するII型肺胞上皮細胞に直接作用し、PI3K-AKT経路を介して脂質合成を司る転写因子「SREBP1」を活性化することが分かった。この働きにより、組織を保護する多価不飽和脂肪酸(PUFA)由来の脂質メディエーターが大量に産生され、過剰な炎症に対抗する現象が起きるとしている。研究グループはこの脂質応答を「リピッド・カウンターストーム」と命名した。SREBP1遺伝子を持たないマウスでは、この治療効果が失われることも確認されたという。
さらに、細胞外小胞に含まれるリン脂質(PG)がsPLA2によって分解されて生じる「リゾホスファチジルグリセロール(LPG)」が抗炎症作用の鍵であることを特定し、PGのみで作った人工リポソームを酵素処理した「PG-SPLEVs」でも、細胞由来のSPLEVsと同等の治療効果が再現されたと報告している。
サイトカインストームへの対応と細胞外小胞研究の位置づけ
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)や敗血症、ARDSなどでは、免疫反応が過剰に活性化し全身に強い炎症が広がる「サイトカインストーム」が生じることがあり、重症化すると呼吸不全や多臓器不全につながる場合がある。これまでの治療では炎症を抑える免疫抑制療法が用いられてきたが、十分な効果が得られない例もあり、新たな治療戦略が求められていたという背景がある。
こうした中、近年は脂質が持つ組織保護的な作用に注目が集まっており、細胞外小胞はsPLA2という脂質分解酵素によって性質や機能が変化することが分かってきていた。研究グループは、組織保護作用が知られる肝細胞由来の細胞外小胞に着目し、sPLA2で人為的に修飾したSPLEVsを作成して治療効果を検証した。現在、細胞外小胞を用いた治療法としては間葉系幹細胞由来のものが注目されているが、大量生産や製造コストが課題とされており、今回の成果はこうした課題に対応する研究の一つとして位置づけられる。
事実関係の整理
- 情報の種類:大学発の研究発表(学術誌掲載)
- 発表主体:大阪大学微生物病研究所、東海大学、東京大学、筑波大学などの共同研究グループ
- 対象:急性呼吸窮迫症候群(ARDS)などのモデルマウス
- 主要指標:好中球浸潤、炎症性サイトカイン(IL-6、TNFα)、組織炎症スコア、SREBP1活性化、脂質代謝物LPG
- 掲載誌:米国科学誌「Science Advances」(2026年8月1日オンライン公開)
- 留意点:現時点で示されたのは動物モデルにおける結果であり、ヒトでの有効性・安全性は今後の検証課題である
参考文献
大阪大学・東海大学・東京大学・筑波大学
https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400293822.pdf