研究

東京慈恵会医科大学と東京大学、黄色ブドウ球菌バイオフィルムを支える「分子の接着剤」L-PGを発見

病気の克服を目指す研究動向。写真はイメージです。(写真:Adobe Stock)

 東京慈恵会医科大学と東京大学の研究グループが、黄色ブドウ球菌が形成するバイオフィルムの菌体外マトリクスに、細胞膜を構成するリン脂質「リジルホスファチジルグリセロール(L-PG)」が存在し、細菌同士を結び付ける役割を担うことを発見したと発表した。

 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が作るバイオフィルムを対象に解析した結果、L-PGが細菌の凝集を促進する一方、リン脂質分解酵素ホスホリパーゼA1(PLA1)が細胞外リン脂質を分解することでバイオフィルムを崩壊させる作用も確認されたと報告している。

菌体外リン脂質L-PGが細菌接着を担うことを確認

 東京慈恵会医科大学細菌学講座の杉本真也准教授、原慧一郎大学院生(研究当時)、金城雄樹教授らの研究グループは、東京大学大学院医学系研究科附属疾患生命工学センターの村上誠教授、武富芳隆講師、長崎祐樹助教、産業技術総合研究所の佐藤主税博士(現・青山学院大学)と共同で、黄色ブドウ球菌のバイオフィルムを解析し、菌体外マトリクスにL-PGが含まれることを確認したと発表した。

 研究グループは独自に開発した菌体外マトリクス抽出法を用いてリピドミクス解析を実施し、ホスファチジルグリセロール(PG)、L-PG、カルジオリピンが検出されたと報告している。特にL-PGとカルジオリピンの一部が菌体外マトリクスに多く存在し、これらのリン脂質がPLA1によって分解されることも確認したとしている。

 試験管内でMRSAの細胞にL-PGを添加したところ、細菌同士の凝集が促進されることが分かった。L-PGは正の電荷を持ち、負に帯電したMRSAの細胞表面と引き合うとともに、脂質どうしの疎水性相互作用によって細菌同士の凝集が促されたと説明している。負に帯電したシリカビーズを用いた実験でも同様の現象が確認されたという。

 共焦点レーザー顕微鏡、大気圧走査型電子顕微鏡、超高分解能電界放出形走査型電子顕微鏡を用いてMRSAの凝集塊を観察した結果、細胞同士が結合する面にL-PGの微粒子が多く集まっていることが確認され、L-PGが菌体外マトリクス中で細菌同士を結び付ける役割を担うことが示されたとしている。

バイオフィルムの構造と難治性感染症との関わり

 バイオフィルムは微生物が固体表面に付着し、自ら産生する菌体外マトリクスに包まれて形成する集合体である。中心静脈カテーテルや人工関節などの医療機器に形成された場合、抗菌薬や免疫の作用を受けにくくなり、難治性感染症を引き起こす要因になるとされている。研究グループはこれまでに、黄色ブドウ球菌バイオフィルムの菌体外マトリクスにDNAや環境中のRNAが構成成分として利用されることを報告していたが、細胞膜を構成するリン脂質の種類や役割については明らかになっていなかったと説明している。

 今回の発表では、MRSAが作るバイオフィルムを対象に構成成分を詳しく調べ、L-PGが細胞外で細菌同士を結び付ける機能を持つことが新たに示された。研究グループは、これまであまり注目されてこなかったリン脂質がバイオフィルムの立体構造の形成と維持に関わっている可能性を示す結果だとしている。

 L-PGの生合成には酵素「MprF」が必要であることから、研究グループはMprFを持たない黄色ブドウ球菌の変異株を作製し、独自に開発した透明化イメージング技術「iCBiofilm法」を用いてバイオフィルムの立体構造を観察した。その結果、MprF欠損株ではL-PGが失われ、バイオフィルムの厚みや立体構造が著しく低下したことが確認されたと報告している。

 また、東京慈恵会医科大学附属病院で採取された黄色ブドウ球菌の臨床分離株を用いた実験では、PLA1が細菌そのものを死滅させるわけではないものの、新たなバイオフィルムの形成を防ぎ、既に形成されたバイオフィルムを崩壊させる作用を持つことが確認された。研究グループは、この結果を細菌の防御バリアを標的とする制御手法の一つとして位置づけている。

事実関係の整理

  • 発表主体:東京慈恵会医科大学細菌学講座(杉本真也准教授、原慧一郎大学院生、金城雄樹教授)、東京大学大学院医学系研究科附属疾患生命工学センター(村上誠教授、武富芳隆講師、長崎祐樹助教)、産業技術総合研究所(佐藤主税博士)
  • 対象菌種:黄色ブドウ球菌、特にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)
  • 主要成分:リジルホスファチジルグリセロール(L-PG)、カルジオリピン、ホスファチジルグリセロール(PG)
  • 主要手法:リピドミクス解析、共焦点レーザー顕微鏡、大気圧走査型電子顕微鏡、超高分解能電界放出形走査型電子顕微鏡、iCBiofilm法によるバイオフィルム透明化観察
  • 関連酵素:リン脂質分解酵素ホスホリパーゼA1(PLA1)、L-PG生合成に関わる酵素MprF
  • 掲載誌:npj Biofilms and Microbiomes(2026年8月6日付、DOI: 10.1038/s41522-026-01105-5)

参考文献

東京慈恵会医科大学・東京大学
https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400294105.pdf


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