京都大学、統合失調症向け社会認知トレーニングの日本版を自閉スペクトラム症成人に応用し生活機能改善を確認
京都大学大学院医学研究科精神医学教室の大塚貞男特定助教(研究当時、現:兵庫教育大学大学院学校教育研究科准教授)と村井俊哉教授らの研究グループは、米国で統合失調症向けに開発された社会認知スキルトレーニング(SCST)の日本版治療プログラムを作成した。
統合失調症と自閉スペクトラム症(ASD)をもつ成人を対象にランダム化比較試験を実施した結果、両疾患で表情から感情を読み取る能力の改善が示された。ASDについては表情認知に加え、他者の心を推測する「心の理論」の改善傾向と、日常生活や社会生活に関わる全般的機能の向上との関連も確認された。
表情認知の改善と生活機能への関連を確認
社会認知とは、他者の感情や意図を理解し、人との関わりに役立てる能力を指す。研究グループは、統合失調症向けに米国で開発されたSCSTの日本版治療プログラムを作成し、統合失調症とASDをもつ成人を対象に評価者盲検・多施設共同のランダム化比較試験を実施した。試験の結果、統合失調症とASDの両方において、表情から感情を読み取る能力の改善が示された。
本研究ではSCSTをASD成人に初めて応用した。その結果、表情の読み取りに加えて、他者の心を推測する能力である心の理論の改善傾向が認められた。さらに、日常生活や社会生活に関わる全般的機能の改善も確認された。研究グループは、社会認知への心理学的支援がASDをもつ成人の生活機能の向上につながる可能性を示した成果と位置づけている。
ASD成人への心理学的支援のエビデンス不足を背景に開始
SCSTはこれまで主に統合失調症を対象に米国で開発・検証されてきたプログラムであり、社会認知の困難に対する心理学的支援として位置づけられている。一方、ASDをもつ成人に対しては、生活機能や生活の質の向上に心理学的支援がどの程度役立つかを示すエビデンスが乏しい状況があった。
研究グループの大塚特定助教は、精神科の医療機関で臨床心理士として勤務していた際にこの課題意識をもち、2014年に京都大学大学院博士課程に進学したとしている。博士課程では、ASDにおける社会認知と生活機能との関係を明らかにし、その成果を踏まえてSCSTをASDをもつ成人に応用する構想のもとで本臨床試験が計画された。今回の成果は、博士課程入学から10年以上を経て公表されたものであるとしている。
事実関係の整理
- 情報の種類:研究発表(評価者盲検・多施設共同ランダム化比較試験)
- 発表元:京都大学大学院医学研究科精神医学教室
- 対象:統合失調症および自閉スペクトラム症(ASD)をもつ成人
- 主要指標:表情からの感情認知能力、心の理論、日常生活・社会生活の全般的機能
- 掲載誌:Psychiatry and Clinical Neurosciences(2026年7月22日オンライン掲載)
- 留意点:ASDにおける心の理論の改善は「改善傾向」として報告されており、生活機能の改善との関連を示した点が新規性とされている
参考文献