研究

東北大学がAI設計の人工タンパク質「IDP1」と極細硬性内視鏡を開発、マウス大腸がんで1回投与により腫瘍消失を確認

病気の克服を目指す研究動向。写真はイメージです。(写真:Adobe Stock)

 東北大学多元物質科学研究所とエア・ウォーター株式会社の研究グループが、人工知能(AI)を用いて設計した生分解性の人工タンパク質「IDP1」でコーティングした光熱変換ナノ粒子と、注射針に挿入可能な極細硬性内視鏡を開発したと発表した。

 マウスの大腸がんモデルにおいて、1回の薬剤投与と1回のレーザ照射の組み合わせで腫瘍が14日以内に消失し、40日以上再発しなかったことを確認したとしている。

生分解性タンパク質と接触型照射で光熱療法の課題に対応

 東北大学多元物質科学研究所の都英次郎教授(北陸先端科学技術大学院大学客員教授)らと、エア・ウォーター株式会社の山下紘正グループリーダー(帝京大学先端総合研究機構特任准教授)らの共同研究グループが、近赤外線レーザでがん細胞を熱で破壊する「光熱療法」に関する新たな材料とデバイスを開発したと発表した。研究グループは、タンパク質構造予測AI「AlphaFold(アルファフォールド)」を活用してヒト血清アルブミンを改変した人工タンパク質「IDP1(内在性無秩序ポリペプチド1)」を設計し、これを光熱変換ナノ粒子の表面にコーティングした。IDP1は血中滞留時間が従来のポリエチレングリコール(PEG)の4倍以上であり、体内の酵素によって分解される生分解性を持つとしている。

 光熱変換ナノ粒子は、直径約200ナノメートルの脂質ナノ粒子内部にカーボンナノホーン(CNH)と、米食品医薬品局(FDA)承認の蛍光色素であるインドシアニングリーン(ICG)を封入し、表面をIDP1でコーティングしたものである。静脈投与のみで腫瘍に効率よく集積し、正常臓器への分布が少ないことを定量的に確認したとしている。あわせて、エア・ウォーター株式会社と共同開発したレンズ径0.5ミリメートルの極細硬性内視鏡を用い、標準的な16ゲージの注射針に挿入して腫瘍内部に刺し込み、直接レーザを照射する「接触型照射システム」を実現した。マウスの大腸がんモデルでは、1回の薬剤投与と1回のレーザ照射の組み合わせにより腫瘍が14日以内に消失し、40日以上再発しないことを確認したとしている。観察期間中、明らかな全身毒性は認められなかったという。

光熱療法における従来の課題と今回の位置づけ

 光熱療法は手術や放射線治療に比べて体への負担が少ない次世代のがん治療として位置づけられてきた一方、治療薬を運ぶナノ粒子が免疫細胞に排除されて腫瘍へ届きにくいことと、体外からのレーザ照射では深部の腫瘍に十分な熱を届けにくいことが課題とされてきた。ナノ粒子を免疫細胞から守る材料としては石油由来の水溶性ポリマーであるPEGが医薬品分野で広く使われてきたが、繰り返し投与によって体が抗体を産生し薬剤が急速に排除される問題や、体内で分解されないという長期的な安全性の課題が指摘されてきた。

 今回開発されたIDP1は、約100個のアミノ酸から構成される比較的小さなタンパク質で、決まった立体構造を持たず水中で柔軟に揺らめく「無秩序な」構造を特徴とする。この柔軟性と水との親和性が免疫細胞から認識されにくいステルス効果の源になっているとされ、大腸菌による大量生産も可能だとしている。AlphaFoldは英国のディープマインド社(現グーグル・ディープマインド)が開発したタンパク質の立体構造予測AIであり、2024年のノーベル化学賞の受賞対象となった研究に関連する技術として世界中の研究者が無償で利用できるものである。研究グループは、このAlphaFoldを用いてヒト血清アルブミンの改変配列がどのような構造を取るかを予測し、無秩序な領域を特定してIDP1の設計に活用したとしている。また、極細硬性内視鏡にはグレーデッドインデックス型プラスチック光ファイバ(GI-POF)を用いたレンズが使われており、腫瘍内の蛍光画像をリアルタイムで観察できる機能も搭載可能なデバイスとして開発されている。

事実関係の整理

  • 情報の種類:大学によるプレスリリース、学術誌掲載の研究成果
  • 発表主体:東北大学多元物質科学研究所(都英次郎教授ら)、エア・ウォーター株式会社(山下紘正グループリーダーら)
  • 対象:マウス大腸がんモデル
  • 主要技術・材料:AI設計の人工タンパク質「IDP1」、光熱変換ナノ粒子(IDP1-CNH/ICG)、極細硬性内視鏡による接触型照射システム
  • 主要結果:1回の投与・照射で腫瘍が14日以内に消失し、40日以上再発なし。観察期間中に明らかな全身毒性は認められず
  • 掲載誌:Small Science(2026年7月14日付掲載)
  • 留意点:現時点の結果はマウスモデルによるものであり、ヒトでの有効性・安全性を示すものではない

参考文献


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