東京大学、多発性骨髄腫の生存期間を診断後1~18カ月の経過情報から予測する動的モデルを開発
東京大学大学院新領域創成科学研究科と理化学研究所などによる研究グループは、多発性骨髄腫の診断後1~18カ月の観察期間から、それ以降の全生存期間を予測する動的なマルチモーダル予測モデルを開発したと発表した。
遺伝子発現データ、10種類の検査項目の経時的な推移、治療履歴を深層学習で統合することで、診断時の情報だけに基づく従来の静的なモデルに比べて高い予測性能が得られたと報告している。
治療経過の情報を組み込んだ生存予測モデル
東京大学大学院新領域創成科学研究科のジア シャンルー大学院生、理化学研究所生命医科学研究センターのアロック シャルマ専任研究員、東京大学大学院理学系研究科のアルテム ルイセンコ(Artem Lysenko)准教授、角田達彦教授(兼 東京大学大学院新領域創成科学研究科教授)らの研究グループは、多発性骨髄腫に対し、診断後1~18カ月の観察期間の情報からそれ以降の残存全生存期間を予測する動的なマルチモーダル予測モデルを開発したと発表した。研究グループが独自に提案してきたDeepInsight法により画像様形式に変換した診断時の遺伝子発現データと診断時の臨床・血液検査データに加え、10種類の検査項目の経時的な推移や治療履歴を深層学習で統合した点が特徴とされる。
Multiple Myeloma Research FoundationのCoMMpass(Clinical Outcomes in MM to Personal Assessment of Genetic Profile)臨床試験の公開データに含まれる患者752人分の情報で評価した結果、診断時などの初期情報のみを用いる従来の手法を上回る、残存生存期間の予測性能が得られたと報告している。また、患者の生存リスクの高低による差は、観察期間中のいずれの時点でも予測可能であり、治療経過や追跡診断の情報を加えることで予測性能が向上することも示されたという。予測モデルが判断に用いた因子を分析したところ、ユビキチン・プロテアソーム、小胞体ストレス、インターフェロンα応答に関わるシグナルが見出され、これらは骨髄腫の既知の生物学的メカニズムと一致する内容とされている。
診断時点の情報に依存してきた従来モデルの位置づけ
多発性骨髄腫は形質細胞ががん化して骨髄で異常増殖する血液がんの一種であり、血液がんの約10%を占めるとされる。新規診断患者の全生存期間は数カ月から10年以上と幅があり、患者ごとの予後の見通しには差がある。これまでの予後の層別化は、診断時に確定される病期分類システムに基づいて行われており、個々の患者が治療中に経験する経時的な変化は考慮されていなかったという。
多発性骨髄腫の治療は、導入療法、移植適格性評価、強化療法、維持療法といった複数の段階を経て、数カ月から数年にわたる長期の過程となる。臨床の現場では、導入療法の完了や移植の決定、維持療法の開始といった節目で医師が予後を再評価しているが、既存の計算モデルの多くは診断時など単一時点の情報に基づいて構築されているため、新たな観察データが得られてもそれをもとに予測を更新することは容易ではなかったとされる。本研究は、この治療経過中に得られる情報を予測モデルに組み込むことを目的として行われた。
事実関係の整理
- 情報の種類:研究発表(学術論文に基づくプレスリリース)
- 発表主体:東京大学大学院新領域創成科学研究科・大学院理学系研究科、理化学研究所生命医科学研究センターの研究グループ
- 対象データ:CoMMpass臨床試験の公開データに含まれる多発性骨髄腫患者752人分の情報
- 使用手法:DeepInsight法による遺伝子発現データの画像化、10種類の検査項目の経時的推移、治療履歴を統合した深層学習モデル
- 掲載誌:『Briefings in Bioinformatics』、DOI:10.1093/bib/bbag475
- 留意点:現時点では公開データに基づく評価であり、臨床連携による前向き検証は今後の課題として位置づけられている
参考文献