研究

金沢大学が肺腺がんの治療抵抗性に関わる新因子「C/EBPγ」を発見、EMTとDNA修復をつなぐ仕組みを解明

病気の克服を目指す研究動向。写真はイメージです。(写真:Adobe Stock)

 金沢大学がん進展制御研究所と東京都医学総合研究所などの共同研究グループが、肺腺がん細胞の悪性化と治療抵抗性の獲得に関わる新たな因子として、転写因子C/EBPγを同定したと発表した。

 研究グループは、C/EBPγが上皮間葉転換(EMT:Epithelial-to-Mesenchymal Transition)の誘導と、抗がん剤によるDNA損傷の修復促進という2つの働きを同時に担う分子であることを、細胞実験とマウスモデルを用いて示した。成果は英国科学誌『Cell Death Discovery』に掲載された。

EMTとDNA修復を結ぶ転写因子C/EBPγを同定

 研究グループは、肺腺がん細胞株A549細胞を用いたTGF-β誘導性EMTモデルにおいて、ヒストンH3リジン4トリメチル化(H3K4me3)修飾領域の拡大を指標とする独自の解析手法を用い、EMTの過程で活性化する転写因子群を網羅的に探索した。その結果、従来の解析では見落とされていたEMT関連因子として転写因子C/EBPγを見いだしたと発表した。

 C/EBPγを肺腺がん細胞に過剰発現させると、細胞形態が間葉系様に変化し、上皮マーカーE-cadherinの発現低下と、N-cadherinやビメンチンなど間葉系マーカーの発現増加が確認された。一方、RNA干渉によりC/EBPγの発現を抑制すると、EMTの進行と細胞の運動能の低下が認められたと報告している。

 さらに免疫沈降実験と質量分析により、C/EBPγがEMT抑制的に働く転写因子C/EBPβに加え、DNA二本鎖切断修復に関わるKu複合体の構成因子XRCC5・XRCC6と結合することが示された。C/EBPγはLZドメインを介してC/EBPβの転写活性を抑制することでEMTを促進する一方、XRCC5・XRCC6との結合を介してDNA損傷部位へのKu複合体の集積を促し、非相同末端結合(NHEJ)によるDNA修復を促進すると説明している。この作用の結果、DNA損傷マーカーγ-H2AXの減少と細胞生存率の向上が観察され、マウス移植腫瘍モデルでは抗がん剤エトポシドに対する治療抵抗性の増加が確認されたとしている。

EMTとDNA修復能の関係が未解明の課題とされてきた背景

 がんの進展過程では、腫瘍細胞が浸潤や転移能を獲得すると同時に、治療への抵抗性を高めることが課題とされてきた。その代表的な現象の1つがEMTであり、上皮系のがん細胞が間葉系様の性質を獲得することで、腫瘍の不均一性や悪性化に寄与すると考えられている。EMTはSNAIL、TWIST、ZEBファミリーなどの転写因子によって制御されることが知られているが、EMTを制御する分子ネットワークの全体像は十分に解明されておらず、EMTがどのように治療抵抗性と結びつくのかは未解決の課題として位置づけられてきた。

 抗がん剤や放射線治療はDNA二本鎖切断などのDNA損傷を誘導することで抗腫瘍効果を発揮する一方、がん細胞はDNA修復機構を活性化させることで損傷を修復し、治療抵抗性を獲得することが知られている。近年、EMTとDNA修復能の亢進との関連が指摘されてきたが、その分子的な仕組みは十分には明らかになっていなかった。今回の成果は、この2つの現象を分子的に結びつける因子としてC/EBPγを位置づけるものであり、EMTを担う転写プログラムの再編とゲノム安定性維持の仕組みとの関係を示す知見として整理される。

事実関係の整理

  • 情報の種類:大学発表による基礎研究成果
  • 発表元:金沢大学がん進展制御研究所(研究主体には東京都医学総合研究所、熊本大学国際先端医学研究機構も含まれる)
  • 対象:肺腺がん細胞株(A549細胞など)およびマウス移植腫瘍モデル
  • 主要な分子:転写因子C/EBPγ、C/EBPβ、DNA修復因子XRCC5・XRCC6(Ku複合体構成因子)
  • 掲載誌・日付:『Cell Death Discovery』、2026年6月2日オンライン先行公開、2026年8月4日最終版掲載、DOI:10.1038/s41420-026-03181-0
  • 留意点:本成果は細胞株実験およびマウス移植腫瘍モデルに基づく知見であり、ヒトでの治療応用については今後の検証が必要とされる

参考文献


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