順天堂大学、国境を越えた遠隔診療の政策変遷と実施課題を分析 2024年にQ&Aで越境対応を初めて明記
順天堂大学の研究チームが、日本における国境を越えた遠隔診療(クロスボーダー・テレコンサルテーション)の政策変遷と実施上の課題を整理した論文を発表した。
1997年に導入された医師対医師(D-to-D)型の遠隔診療指針から、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行後の規制緩和、そして2024年1月の厚生労働省によるQ&A追加までを時系列で示すとともに、順天堂大学病院での実践例と残る課題を報告している。
1997年の指針から2024年のQ&A追加までの制度変遷が報告された
論文は、日本における遠隔診療の制度が1997年12月24日の厚生労働省通知に端を発すると整理している。この通知は「情報通信機器を用いた診療(いわゆる遠隔診療)」として、医師対医師(D-to-D)または歯科医師対歯科医師の枠組みを想定し、医師法第20条が定める無診察治療の禁止に抵触しないことを初めて明確にしたと説明している。ただし対象は、既に医療機関にかかり安定した状態にある患者への非緊急・経過観察目的の診療に限定され、初診や救急対応は除外されていたとしている。
2020年2月以降の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行を受け、厚生労働省は同年4月、COVID-19流行下における電話や情報通信機器を用いた診療の時限的・特例的な取り扱いを示す通知を発出し、初診についても遠隔診療で対応できるようにしたと報告している。さらに2023年5月には、遠隔診療が医療分野のデジタルトランスフォーメーション戦略に正式に位置づけられたとしている。
もっとも、こうした制度変更は主として国内患者を対象としたものであり、海外から日本の医療機関を利用してきた患者への対応は積み残されていたと論文は指摘する。転機となったのが2024年1月で、厚生労働省が「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に関するQ&Aを改定し、海外に居住する患者が日本国内の医師からオンライン診療を含む医療サービスを受ける場合について、新たな設問(Q28)を追加したと報告している。回答では、日本国内の医師が提供する診療には医師法や医療法、オンライン診療指針など日本の法令が適用される一方、患者が居住する国の関連法令の順守も必要になるとされている。
医療ツーリズムと海外患者対応をめぐる背景
論文は、越境遠隔診療への需要がCOVID-19流行以前から存在していたと位置づけている。医療ツーリズムの枠組みでは、人間ドックのような健診目的の訪日に加え、高度医療の受診を目的とする訪日も少なくないとし、渡航前に担当医や治療計画を把握したいという患者側のニーズがあると説明している。
国内の保険を持たない訪日患者については、大学病院を含む多くの三次医療機関が、保険適用前の基準額の100%から400%にあたる料金を上乗せしている実態が、2022年3月時点の厚生労働省の報告書で示されているとしている。手術や化学療法など高額な治療を要する患者は多額の費用負担に加え、家族の帯同を含む渡航調整も必要となり、事前に担当医や治療方針、病院環境について詳しい情報を求める傾向があるとし、遠隔診療がこうした事前の情報提供手段として機能し得ると位置づけている。
治療後の経過観察についても、帰国後の患者が時間的・経済的な制約から定期受診を続けることが難しく、頻繁な再渡航は現実的でない場合が多いとしている。この点が、日本の医師が海外患者を受け入れる際の慎重さにつながってきた面があるとしつつ、遠隔診療は帰国後も日本の医師と患者との連絡を継続し、国境を越えた診療の継続性を支える手段になり得ると整理している。
事実関係の整理
- 情報の種類:政策変遷の分析および病院での実践報告(学術論文)
- 公表元:順天堂大学(順天堂医学誌掲載)
- 対象:厚生労働省の遠隔診療関連通知、順天堂大学医学部附属順天堂医院(順天堂大学病院)における越境遠隔診療の実践
- 主要な経緯:1997年12月の遠隔診療指針、2020年4月のCOVID-19特例、2023年5月のデジタルトランスフォーメーション戦略への位置づけ、2024年1月のQ&A追加(Q28)
- 留意点:越境遠隔診療に関する統一的な国際法制度は整備されておらず、患者居住国の法令順守や情報の翻訳精度、法的責任の所在などが課題として指摘されている
参考文献
Juntendo Medical Journal
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12835432/