大阪公立大学がイヌiPS細胞から赤血球様細胞を作製、動物医療の輸血を支える基盤技術に期待
大阪公立大学大学院獣医学研究科の木村和人客員研究員(兼カリフォルニア大学デービス校博士研究員)と鳩谷晋吾教授の研究グループは、イヌiPS細胞(人工多能性幹細胞)からヘモグロビンを持つ赤血球様細胞の作製に成功したと発表した。
研究グループはさらに、赤血球の目印となるタンパク質GYPA(グリコフォリンA)の発現を蛍光で可視化するレポーター細胞を作製し、赤血球様細胞が形成される過程を追跡できるようにしたと報告している。成果は国際学術誌『Stem Cells Translational Medicine』にオンライン掲載された。
イヌiPS細胞からの赤血球様細胞作製とGYPA発現の確認
研究グループは、イヌiPS細胞を細胞塊として培養し、生体内での血球形成過程を模した段階的な培養条件の変更により、赤血球への分化を誘導したと説明している。この過程で血液細胞のもとになる細胞が出現し、最終的にヘモグロビンを持つ赤く色づいた赤血球様細胞が得られたという。
あわせて、CRISPR-Cas9によるゲノム編集を用い、GYPA遺伝子が発現すると緑色蛍光タンパク(EGFP)が連動して作られるレポーター細胞を作製したと報告している。イヌではGYPAを検出できる市販抗体がほとんどないため、このレポーター細胞により赤血球様細胞の分化過程をリアルタイムで追跡することが可能になったとしている。このレポーター細胞から作製した赤血球様細胞では、96%を超える細胞でGYPAの発現が確認されたという。
獣医療における輸血用血液確保の課題
赤血球輸血は、事故や手術による大量出血、重い貧血などの治療において重要な役割を担うが、獣医療では血液バンクの体制整備が十分ではなく、イヌの輸血は健康な献血ドナー犬への依存に頼っているのが現状だと研究グループは説明している。イヌには血液型が存在するため、必要な時に適合する血液を十分に確保することが課題とされている。
近年、iPS細胞を用いて体内のさまざまな細胞を作る研究が進み、血液供給の新たな方法の一つとして応用が期待されている。また、イヌはヒトと生活環境を共有し、ヒトと似た病気を自然に発症することから、ヒト医療への橋渡し研究のモデルとしても注目されているが、これまでイヌiPS細胞から赤血球を作る方法は十分に確立されていなかったという背景がある。
なお、今回作製された細胞は、成熟した輸血用赤血球そのものではない。哺乳類の成熟赤血球は核を持たないことが特徴とされるが、本研究で脱核が確認された細胞は3%程度にとどまり、ヘモグロビンの遺伝子についても未熟なタイプが検出されたとしている。酸素運搬能力や細い血管を通過する変形能力、体内での生存能力といった機能面の評価も行われていないことから、研究グループはこの成果を「イヌiPS細胞から赤血球様細胞を作製するための基盤を示した成果」と位置づけている。
事実関係の整理
- 発表主体:大阪公立大学大学院獣医学研究科(木村和人客員研究員、鳩谷晋吾教授)
- 掲載誌:『Stem Cells Translational Medicine』(2026年7月20日オンライン掲載)
- 主な成果:イヌiPS細胞からのヘモグロビン含有赤血球様細胞の作製、GYPA発現レポーター細胞の作製(GYPA発現細胞比率96%超)
- 技術要素:CRISPR-Cas9によるゲノム編集を用いたレポーター細胞作製
- 留意点:脱核細胞は3%程度にとどまり、ヘモグロビン遺伝子は未熟なタイプが検出された。酸素運搬能力や変形能力、体内生存能力の機能評価は未実施であり、輸血に利用可能な成熟赤血球の完成を示すものではない
参考文献