京都大学が腫瘍免疫を広範に誘導する新規エピトープの研究成果を発表──がん抗原に依存しない免疫療法の位置づけを整理
京都大学医学研究科の茶本健司特定教授、Zhang Rongsheng博士課程学生らの研究グループが、キラーT細胞とヘルパーT細胞を同時に活性化する非自己ペプチドを用いることで、配列内容によらず広範な腫瘍免疫を誘導できるとする研究成果を発表した。
このペプチドは、単一分子内に主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスIとクラスIIの両方のエピトープを併せ持ち、細胞内で発現するという2つの条件を満たす場合に、抗原提示細胞の成熟化を介して新たながん特異的キラーT細胞を所属リンパ節で誘導することが確認されたとしている。
単一ペプチドが担う二重エピトープが広範な腫瘍免疫を誘導
研究グループは、キラーT細胞が認識するMHCクラスIエピトープと、ヘルパーT細胞が認識するMHCクラスIIエピトープが同一のペプチド内に存在し、かつそのペプチドが生体内の細胞内で発現しているという2条件を満たす場合に、これまで反応しなかった新規のがん特異的キラーT細胞が所属リンパ節で誘導されることを示した。
この様な配列は、がんにおけるフレームシフト変異によって生じる長鎖ペプチド産物に高頻度で含まれることが確認された。大腸がん患者のデータを解析したところ、この様ながん抗原を有する患者群では良好な予後との相関が認められたと報告している。
マウスモデルを用いた検証では、片側の腫瘍にこのペプチドを投与することで反対側に移植した遠隔腫瘍の増殖が抑制される現象が確認されたほか、免疫チェックポイント阻害薬の一種であるPD-1阻害薬に対する感受性が増強されることも示された。研究成果は2025年12月5日、国際学術誌『Journal of Experimental Medicine』にオンライン掲載された。
がん抗原の個別同定に依存しない免疫療法という位置づけ
従来のがん免疫療法の多くは、患者ごとに固有のネオ抗原を同定し、それに対する免疫反応を高める設計を前提としてきた。この様な手法は個々の腫瘍の遺伝子変異を解析する必要があり、対象となる抗原の特定自体に一定の技術的負荷が伴う。
今回の研究は、特定のがん抗原の配列内容を事前に同定しなくても、MHCクラスIとクラスIIのエピトープを同一分子内に持つペプチドという条件さえ満たせば、抗原提示細胞の成熟化を介して広範な腫瘍免疫が誘導され得るという概念を示すものである。研究グループは、これをがん抗原の特異性に依存しない新しいアジュバント型免疫療法の考え方として位置づけており、免疫チェックポイント阻害薬に反応しない腫瘍を反応する状態へ転換できる可能性があるとしている。
事実関係の整理
- 情報の種類:基礎研究(がん免疫学)
- 発表元:京都大学医学研究科(茶本健司特定教授、Zhang Rongsheng博士課程学生ら)
- 対象:マウスモデル、大腸がん患者由来データ
- 主要指標:MHCクラスI・IIエピトープの共存条件、抗原提示細胞の成熟化、所属リンパ節でのキラーT細胞誘導、PD-1阻害薬に対する感受性
- 掲載誌:『Journal of Experimental Medicine』(2025年12月5日オンライン掲載)
- 留意点:現時点では基礎研究段階の成果であり、臨床応用は今後の検討課題として位置づけられている
参考文献
京都大学「腫瘍免疫を広範囲に活性化するキメラ型MHCクラスI・IIエピトープの開発に成功―がん抗原の本質を明らかにした画期的な発見―」
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2025-12-15-2