国立がん研究センターと東北大学が白血病新サブタイプ発見を発表──エンハンサー・ハイジャック機序を整理
国立研究開発法人国立がん研究センターと国立大学法人東北大学の研究グループが、T細胞性急性リンパ性白血病(T-ALL)の中に、これまで知られていなかった染色体異常を伴う新しいサブタイプが存在することを明らかにしたと発表した。
このサブタイプは「エンハンサー・ハイジャック」と呼ばれる仕組みによって発症し、標準的な抗がん剤治療では完治を得にくい高リスクな病態であることが示された。研究成果は2026年3月6日(米国時間)、米国血液学会の機関誌『Blood』に掲載された。
新規染色体異常を伴う高リスクT-ALLサブタイプの特定
国立がん研究センター研究所がん進展研究分野の吉田健一分野長、三村海渡連携大学院生、戒能明任意研修生(東北大学大学院医学系研究科発生・発達医学講座小児病態学分野大学院生)らの研究グループは、東北大学大学院医学系研究科発生・発達医学講座小児病態学分野(菊池敦生教授)などとの協力のもと、T-ALLの新たなサブタイプを発見し、その発症メカニズムを明らかにしたと発表した。
研究グループは、全ゲノムシークエンシングやRNAシークエンシングなどを組み合わせた解析により、14番染色体と16番染色体の一部が入れ替わる「t(14;16)(q32;q24)転座」を持つ患者を、小児11例・成人3例の合計14例(年齢7歳から35歳、平均値16.8歳)特定した。この異常は染色体の末端付近(テロメア近傍)で生じているため、顕微鏡で染色体の形を観察する通常のG分染法では検出が困難であるとしている。
詳細な解析の結果、この転座により、T細胞の成長に必要なBCL11B遺伝子を働かせるための強力なエンハンサーが、通常は血液細胞では働かないFENDRR、FOXF1、FOXC2遺伝子の近傍に移動し、これらの遺伝子が異常に活性化する「エンハンサー・ハイジャック」が生じていることを確認した。中でもFOXF1タンパク質の発現は、上皮間葉転換(EMT)シグナルの活性化と、未熟な血液細胞が骨髄球系の性質を獲得する分化の促進に関与していることが、細胞実験とRNAシークエンシングの組み合わせにより示された。
国内外の複数の研究データを合わせて頻度を調べたところ、海外の小児からAYA世代(1歳から29歳)では1309症例中2症例(0.15%)であったのに対し、日本国内の小児(1歳から19歳)では121症例中3症例(2.4%)、日本国内の成人T-ALLまたは混合表現型急性白血病(MPAL)では74症例中3症例(4.0%)に見られ、日本人、とりわけ成人において頻度が高い傾向が示された。予後については、従来「最高リスク」とされてきたサブタイプよりも生存率が低い傾向にあり、生存していた患者は全員が造血幹細胞移植を受けていたと報告している。
T-ALLのサブタイプ分類と診断・治療における位置づけ
T-ALLは、リンパ球の一種であるT細胞になる過程の未熟な細胞ががん化する血液のがんであり、小児期から思春期・若年成人(AYA世代)にかけて発症のピークを持つとされる。急性リンパ性白血病全体のうち1割から2割程度を占め、近年の遺伝子解析技術の進歩により、10以上の異なる原因で発症するサブタイプが明らかになってきた一方、発症機序が特定できない症例も一部残されていた。
白血病の治療は、サブタイプごとに効果が見込める薬剤や必要な治療強度が異なるため、正確な分類が治療方針の検討において重要な位置づけを持つ。従来の標準治療では完治を得にくい高リスクな一群を早期に見分け、造血幹細胞移植など、より強力な治療の必要性を判断することが求められてきた背景がある。
今回のサブタイプは、既存の遺伝子パネル検査を含む臨床検査では見つけにくい染色体異常を伴うため、全ゲノムシークエンシング、RNAシークエンシング、FISH法、ロングリードシークエンシングといった手法が診断に必要になるとされる。これらはいずれも現時点では研究レベルでの実施にとどまっており、迅速な検査法の確立が今後の課題として位置づけられている。
事実関係の整理
- 情報の種類:医学研究(全ゲノム解析・RNAシークエンシングによる症例解析)
- 公表元:国立研究開発法人国立がん研究センター、国立大学法人東北大学
- 対象:T細胞性急性リンパ性白血病(T-ALL)患者14例(小児11例、成人3例、年齢7歳から35歳、平均値16.8歳)
- 主要指標:t(14;16)(q32;q24)転座、BCL11Bエンハンサーの移動、FOXF1等の異常活性化、症例の頻度・生存期間
- 留意点:既存のG分染法や遺伝子パネル検査では検出が難しく、全ゲノムシークエンシング等の新たな検査法が必要とされる
参考文献
国立研究開発法人国立がん研究センター「「エンハンサー・ハイジャック」により駆動される、極めて高リスクなT細胞性急性リンパ性白血病の新たなサブタイプを発見」
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2026/0310/index.html