研究

国立がん研究センターが透析腎がんの発症機構を解明──近位尿細管由来の経路を整理

病気の克服を目指す研究動向。写真はイメージです。(写真:Adobe Stock)

 人工透析を長期間受ける患者に高い頻度で発症する腎臓がんについて、国立がん研究センターと東京大学の研究グループが、腎臓の近位尿細管細胞に由来する発症機序を分子レベルで明らかにしたと発表した。

 研究成果は米国癌学会(AACR:American Association for Cancer Research)の学術誌『Cancer Discovery』に掲載され、透析下で生じる腎臓がんが一般的な腎臓がんとは異なる分子プロファイルを示すことも報告されている。

透析患者の腎臓がん、近位尿細管由来の発症機序を確認

 国立がん研究センター(東京都中央区)研究所細胞情報学分野の田中庸介研究員、高橋潤任意研修生、間野博行特別研究員らは、東京大学医学部附属病院泌尿器科・男性科(久米春喜教授)との協力のもと、人工透析患者・非透析患者101名の腎臓検体を対象に、全エキソーム解析、RNAシーケンス、シングルセルシーケンス、空間トランスクリプトーム解析を組み合わせた空間的マルチオミックス解析を実施した。

 解析の結果、長期の血液透析に伴って生じる後天性嚢胞腎(ACKD:acquired cystic kidney disease)と、そこから発生する腎臓がんが、いずれも腎臓の近位尿細管細胞に由来することが示された。透析下の腎臓では多くの近位尿細管が萎縮していく一方、一部の近位尿細管細胞は周囲の線維芽細胞が分泌するHGF(hepatocyte growth factor:肝細胞増殖因子)によってMETチロシンキナーゼのシグナル経路を活性化し、細胞死を免れて増殖を続けることが確認された。さらにこの過程で、クロマチン制御関連遺伝子やコヒーシン複合体遺伝子などに変異が蓄積し、クローン性の増殖を経て嚢胞が形成され、最終的に腎臓がんへ進展する経路が示された。

 全エキソーム解析では、透析下で発生する腎臓がんの遺伝子変異パターンが、一般的な腎臓がんとは大きく異なることも確認された。一般的な腎臓がんで高頻度に認められるVHL遺伝子の異常はほとんど見られず、代わりに染色体3番、7番、16番の増幅といったコピー数異常や、クロマチン制御関連遺伝子群の散発的な変異が特徴として挙げられている。RNAシーケンスでも、近位尿細管に関連する遺伝子群の発現上昇が確認され、透析下の腎臓がんが一般的な腎臓がんとは異なる分子生物学的特徴を持つ独立した腫瘍である可能性が示された。

長期透析と腎臓がんリスクの関連という背景

 慢性腎臓病(CKD:chronic kidney disease)は糖尿病、高血圧、糸球体腎炎などを主な原因として発症し、世界人口の10%以上が罹患しているとされる。日本国内の患者数は1500万人を超えるとされ、病状が進行すると腎機能が著しく低下し、自力で尿を排出できない末期腎不全に至る。この段階では体液管理や老廃物除去のために人工透析療法や腎移植が必要となり、日本は世界的にも人工透析患者数が多い国の一つとされ、現在約35万人が長期にわたり透析治療を受けているとされる。

 透析治療が長期化すると、腎臓に多数の嚢胞を伴う後天性嚢胞腎が生じることが知られ、透析開始から10年以上が経過した患者の約9割に発症すると報告されている。これらの嚢胞は腎臓がんの発生母地となる可能性が指摘されており、透析患者の腎臓がん発症リスクは一般人口の約15倍に達するとされる。一方で、人工透析によってなぜ腎嚢胞が形成され、腎臓がんリスクが高まるのかという分子レベルの実態は、これまで十分に解明されていなかった。今回の研究は、この長年の課題に対して空間的マルチオミックス解析という手法を用い、発症過程を細胞・遺伝子レベルで整理したものと位置づけられる。

事実関係の整理

  • 情報の種類:基礎研究の学術論文(『Cancer Discovery』掲載)
  • 発表元:国立がん研究センター、東京大学、日本医療研究開発機構(AMED)
  • 対象:人工透析患者・非透析患者101名の腎臓検体
  • 主要手法:全エキソーム解析、RNAシーケンス、シングルセルシーケンス、空間トランスクリプトーム解析
  • 主な知見:後天性嚢胞腎および透析腎がんの近位尿細管由来性、HGF-METシグナルの活性化、遺伝子変異蓄積によるクローン性増殖
  • 留意点:本研究は基礎研究段階の成果であり、診断・治療への応用には今後の検証が必要とされる

参考文献

国立研究開発法人日本医療研究開発機構
https://www.amed.go.jp/news/release_20251121.html


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