東京大学が22q11.2欠失症候群の重複障害を分析──「医療の区分化」という概念を提唱
東京大学医学部附属病院の笠井清登教授らを中心とする国際共同研究グループは、先天性心疾患や知的障害、精神症状が重なる難病「22q11.2欠失症候群」をもつ子どもと家族の心理社会的困難を質的に分析した研究成果を発表した。
研究グループは、臓器や疾患ごとに細分化された医療サービスと、複数の障害を併せ持つ当事者のニーズとの間に生じる見えにくいミスマッチを指摘し、新たに「医療の区分化(medical compartmentalization)」という概念を提唱した。本研究成果は2025年11月13日(英国時間)、国際医学雑誌『The Lancet』のオンライン版に掲載された。
「医療の区分化」という概念の提唱
東京大学医学部附属病院の笠井清登教授、熊倉陽介助教、東京大学先端科学技術研究センターの熊谷晋一郎教授、慶應義塾大学文学部の北中淳子教授、ミシガン大学(University of Michigan)医学部内科学部門・人類学部のスコット・ストニングトン准教授による国際共同研究グループは、指定難病「22q11.2欠失症候群」をもつ子どもと家族の心理社会的困難を質的に分析した。
研究では、東京大学医学部附属病院で運営されている22q11.2欠失症候群メンタルヘルス専門外来の受診者や、これまでの調査・インタビューへの参加者をもとに、プライバシーに配慮して合成した模擬症例「こころ(仮名)」を通じ、専門科ごとの分断、小児から成人医療への移行の断絶、患者本人のみを対象とした制度設計などが重なることで、病態全体を見渡した支援が行われにくくなる現象を示した。研究グループはこの現象を「医療の区分化(medical compartmentalization)」と定義した。
研究グループは、(1)重複障害を有する患者の支援を医学教育に取り込むこと、(2)ライフコース全体や家族を含めたケアの連携を構築すること、(3)障害者権利条約に基づく人権の視点や当事者参画(コ・プロダクション)を制度設計に取り入れることが必要であるとする教訓を得たとしている。
22q11.2欠失症候群と縦割り医療構造の背景
22q11.2欠失症候群は、22対46本ある染色体のうち22対目の長腕11.2領域が欠損することで生じる染色体起因疾患であり、国の指定難病とされている。合併症は多岐にわたり、心疾患、特有の顔貌、胸腺低形成、口蓋裂などを併存するほか、軽度の知的障害や発達障害を伴うことが多い。近年の研究からは、思春期以降に統合失調症様の精神病症状や不安などの精神症状を発症する場合が少なくないことも分かってきているという。
こうした特性から、患者は乳幼児期の先天性心疾患、学童期の知的障害や感覚過敏、思春期の精神症状というように、人生の各段階で複数の障害が重なって現れる。一方で医療は診療科ごとに区分化されており、総合病院であっても診療科の偏りや不足があるのが現状で、複数の疾患を併せ持つ患者が専門医から「診られない」と断られる状況が生じているという。研究グループは、日本の医療制度は専門分化が特に進んでいるためこの問題が顕著だが、世界的にも普遍的な課題であると位置づけている。
同様の区分化は教育の場にも存在し、普通学級・特別支援学級・特別支援学校といった制度は基本的に単一の障害を想定しているため、複数の障害が重なる子どもがどの枠組みにも適切に当てはまらない状況が生じるとしている。研究グループは、身体・知的・精神的な多様性が重なっていても誰一人取り残さない環境を整えることが「包摂(インクルーシブ)」の本来の意味であるとし、現状の区分化により医療・教育を受ける権利が十分に守られていない場合があると説明している。
事実関係の整理
- 情報の種類:医療人類学的手法による質的研究論文
- 発表元:東京大学、日本医療研究開発機構(AMED)
- 対象:22q11.2欠失症候群をもつ医療的ケア児と家族(模擬症例)
- 掲載誌:『The Lancet』(2025年11月13日オンライン掲載)
- 提唱概念:医療の区分化(medical compartmentalization)
- 助成事業:AMED難治性疾患実用化研究事業、AMED研究倫理・社会共創推進プログラム、日本学術振興会科学研究費助成事業
- 留意点:事例はプライバシーに配慮して複数の患者・家族の情報を合成した模擬症例である
参考文献
日本医療研究開発機構「医療の区分化における難病当事者の抱える困難―22q11.2欠失症候群にともなう重複障害の医療人類学的分析―」
https://www.amed.go.jp/news/release_20251114.html