研究

九州大学が酸素耐性の乳酸菌によるプラズマローゲン生産を発表──構造的特徴を整理

病気の克服を目指す研究動向。写真はイメージです。(写真:Adobe Stock)

 九州大学の研究グループは、酸素が存在する環境でも生育できる乳酸菌などの「通性嫌気性菌」が、脳の健康に関わる脂質成分「プラズマローゲン」を生産できることを確認したと発表した。

 研究グループは、酸素に弱いと考えられてきたプラズマローゲン合成の仕組みが、酸素環境に適応した細菌にも備わっていることを示すとともに、その合成酵素が持つ構造的な特徴を明らかにしたと説明している。

通性嫌気性菌によるプラズマローゲン生産を確認

 研究グループは、乳酸菌や腸球菌を含む通性嫌気性菌11株を対象に分析を行い、いずれの株からもプラズマローゲンが検出されたと発表した。プラズマローゲンはこれまで、酸素に触れると死滅する偏性嫌気性菌に特有の脂質と考えられてきたが、酸素存在下でも生育可能な通性嫌気性菌にも合成能があることが示された。

 乳酸菌Lactococcus cremorisが持つプラズマローゲン合成酵素(PlsA)の遺伝子を大腸菌に導入したところ、酸素存在下でもプラズマローゲンを合成する大腸菌が得られたと報告している。この大腸菌は、酸素によるストレスや高塩濃度による浸透圧ストレスに対しても、通常の大腸菌より高い耐性を示したとしている。

 構造解析では、PlsA酵素のC末端部分に、鉄硫黄クラスター([4Fe-4S])を酸化から保護するとみられるαヘリックス構造が存在することが確認されたと説明している。

脳の健康成分としての位置づけと従来の生産方法の課題

 プラズマローゲンは、脳や心臓、腎臓、白血球などに多く含まれるリン脂質の一種で、ヒト体内の総リン脂質の約18%を占めるとされる。抗酸化作用や細胞膜の安定化、シグナル伝達などに関与するとされ、アルツハイマー型認知症患者では血中や組織中の濃度低下が報告されており、補充療法の可能性が検討されてきた。

 これまでプラズマローゲンは、主に海産物や動物組織から抽出する方法が用いられており、原料の確保や精製にコストがかかることが課題とされてきた。また、微生物由来のプラズマローゲンについても、ウエルシュ菌など酸素に触れると生育できない偏性嫌気性菌にのみ合成能があると考えられてきた経緯がある。

 今回の研究グループは、通性嫌気性菌でもプラズマローゲンを合成できることを示すとともに、酸素環境に適応する過程で合成酵素の構造が変化した可能性を示した。研究グループは、この知見が食品由来の乳酸菌の摂食や、大腸菌を用いた発酵によるプラズマローゲン生産の基盤になり得るとしている。

事実関係の整理

  • 情報の種類:基礎研究(微生物学・脂質代謝)
  • 公表元:九州大学大学院農学研究院・医学研究院
  • 対象:通性嫌気性菌(乳酸菌、腸球菌など11株)、組換え大腸菌
  • 主要指標:プラズマローゲンの検出、酸素・浸透圧ストレスへの耐性、PlsA酵素の構造
  • 掲載誌:Applied and Environmental Microbiology(2025年12月22日掲載)
  • 留意点:現時点では基礎研究段階であり、食品・医薬品への応用は今後の検討課題としている

参考文献

九州大学 研究成果「世界初、酸素に耐える乳酸菌が「脳の健康成分」プラズマローゲンを生産」
https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/1388


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