国立がん研究センターなどがY染色体変異による2型糖尿病リスクの性差解明を発表──ハプログループDとLOYの関与を整理
東京大学、大阪大学、理化学研究所、虎の門病院、慶應義塾大学、東北大学、愛知県がんセンター、国立がん研究センター、徳洲会グループなどからなる研究グループは、日本人男性とイギリス人男性を合わせて30万人以上のゲノム情報を用い、男性に特有なY染色体の変異と疾患リスクとの関連を解析した。
解析の結果、Y染色体上の生殖細胞系列変異である「ハプログループ」と、加齢に伴い一部の細胞でY染色体が失われる体細胞変異「Y染色体のモザイク欠失(LOY)」が、いずれも2型糖尿病の発症リスクと関連することが示された。研究成果は国際科学誌『Nature Medicine』に掲載された。
Y染色体の変異と2型糖尿病リスクとの関連が示された
研究グループは、バイオバンク・ジャパン(日本)やUKバイオバンク(英国)などに登録された男性30万人以上のヒトゲノム情報を用い、Y染色体の生殖細胞系列変異であるハプログループと、体細胞変異であるLOYを網羅的に解析した。日本人集団の男性は主にハプログループC(10.3%)、D(34.0%)、O(53.7%)に分類され、このうちDは日本人集団に特有な系統であり、南西諸島の一部地域で高頻度に認められた。LOYについては、日本人集団の約8.0%、英国人集団の約11.7%で確認され、加齢や喫煙との関連が示された。
疾患との関連解析では、ハプログループDが2型糖尿病の発症リスク低下と関連する一方、LOYは2型糖尿病や気管支喘息など複数の疾患のリスク上昇と関連することが明らかになった。研究グループは日本国内の複数のバイオバンクを統合したゲノムワイド関連解析も実施し、LOYに関連する遺伝的変異を新たに10か所同定した。さらに、東北メディカル・メガバンク計画の独立した集団においても同様の傾向が確認されたと報告している。
既存の2型糖尿病リスク予測に用いられるポリジェニック・リスク・スコア(PRS)は、主に常染色体の情報に基づいて構築されてきたが、これにY染色体ハプログループおよびLOYの情報を組み合わせたところ、予測精度が向上したことが示された。加えて、シングルセル遺伝子発現解析により、LOYは血液中の単球で高頻度に認められ、転写因子FLI1の活性低下と関連することが示された。膵臓においても、インスリンを分泌するベータ細胞にLOYが多く認められ、遺伝子発現プロファイルの変化が確認されたと報告している。
これまでの大規模ゲノム研究におけるY染色体の位置づけ
Y染色体は男性に特異的な染色体であり、父から子へと受け継がれる遺伝的多様性であるハプログループを持つ。一方で、その構造的な特徴や解析上の制約から、これまでの大規模ゲノム研究では疾患との関連が十分に検討されてこなかった経緯がある。加齢に伴い体内の一部の細胞でY染色体が失われるLOYは、男性における体細胞変異の中でも比較的高頻度に認められ、近年、いくつかの疾患との関連が報告されつつあるものの、その生物学的な仕組みは十分に解明されていなかった。
2型糖尿病は世界的に患者数が増加している代表的な生活習慣病であり、発症や病態には性差や人類集団差があることが知られている。今回確認されたハプログループDの地域分布は、縄文祖先由来の系統として南西諸島に高頻度で認められ、常染色体ゲノム情報を対象とした先行研究の知見と一致するものであった。こうした背景を踏まえ、研究グループは今回、Y染色体の生殖細胞系列変異と体細胞変異の双方を組み合わせて解析することで、従来の常染色体中心のリスク評価では捉えきれなかった要素を整理したものと位置づけられる。
事実関係の整理
- 情報の種類:研究成果(ゲノム解析)
- 公表元:東京大学、大阪大学、理化学研究所、虎の門病院、慶應義塾大学、東北大学、愛知県がんセンター、国立がん研究センター、徳洲会グループの研究グループ
- 対象:バイオバンク・ジャパン(日本)およびUKバイオバンク(英国)などに登録された男性30万人以上
- 主要指標:Y染色体ハプログループ、Y染色体のモザイク欠失(LOY)、2型糖尿病発症リスク、ポリジェニック・リスク・スコア(PRS)
- 掲載誌:『Nature Medicine』(2026年2月23日付、米国東部標準時)
- 留意点:示されたのは統計的な関連であり、LOYと疾患発症との因果関係については今後さらなる検証が必要とされる
参考文献
国立がん研究センター「Y染色体がもたらす男性特異的な疾患リスク形成機構を解明―2型糖尿病リスクの性差につながる新たな因子の発見―」
https://www.ncc.go.jp/jp/information/researchtopics/2026/0225/index.html