理研など、肝疾患重症化に伴う腸内細菌叢の「シフト」をエネルギー地形解析で解明
理化学研究所、大阪公立大学、慶應義塾大学先端生命科学研究所の共同研究グループは、脂肪肝に伴う炎症の重症度の変化とともに腸内細菌叢がどのように再編されるかを、環境因子を扱う拡張型のエネルギー地形解析を用いて明らかにした。
成人104人の腸内細菌叢データと、脂肪肝炎の活動度を評価する非侵襲的指標であるFASTスコアを統合解析した結果、重症化に伴う変化は腸内細菌の多様性が単純に減るのではなく、複数の細菌の組み合わせが入れ替わる「群集の再編」として現れることが示された。研究成果は『Scientific Reports』オンライン版に9月25日付で掲載された。
腸内細菌叢の再編をエネルギー地形解析で可視化
共同研究グループは、大阪公立大学で取得された171人のデータのうち、腸内細菌叢に影響を与える薬剤を使用していないことなどの条件を満たす104人のデータを解析対象とした。16S rRNA遺伝子解析で共通して出現する58分類群を用い、各細菌の存在・不在の組み合わせを「群集状態」として扱うエネルギー地形解析を適用した。このモデルはFASTスコアと各細菌の関係、および細菌同士の関係を含み、低いエネルギーを持つ状態ほど出現確率が高く観測されやすい群集状態として表現される。
FASTスコアの低い側から高い側へ地形を調べたところ、代表的な群集状態は組成の類似性に基づき、低FAST型、中間FAST型、高FAST型の状態群に整理できた。低FAST型の状態ではAnaerostipes hadrus、Bacteroides massiliensis、未分類のSubdoligranulum属細菌などの存在が特徴的であり、中間から高FAST型の状態では未分類のRuminococcus gnavusグループに含まれる細菌が広く現れ、最も高いFASTスコアに対応する状態ではStreptococcus salivariusの存在が特徴的だった。一方、種数、Shannon指数、Simpson指数といった一般的な多様性指標は、FASTスコアと有意な相関を示さなかった。
共同研究グループはさらに、個々の細菌が特定の群集状態とどれほど強く結び付くかを定量化する群集形成指数(CSI)を新たに開発し、探索型因果構造解析(FASK)と組み合わせた解析を行った。低FAST型の群集状態ではSubdoligranulumが高いCSIを示し、因果解析ではこの細菌がFASTスコアと群集構造の両方の上流に位置する関係が推定された。中間から高FAST型の群集状態ではRuminococcus gnavusが高いCSIを示し、Subdoligranulumとは強い排他的関係が示されたが、FASTスコアまたは群集構造との一貫した因果関係は検出されなかった。Streptococcus salivariusは出現がFASTスコアに依存する傾向が最も強く、CSIも高い値を示し、因果解析ではFASTスコアと群集構造の両方の上流に位置する関係が推定された。
腸肝軸と評価指標としてのFASTスコアの位置づけ
代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)は、世界の成人のおよそ4人に1人以上がかかるとされる慢性肝疾患であり、病態は脂肪肝から肝炎、線維化、肝硬変、肝がんへと広がり得る。そのため、体への負担が少ない方法で早期に病態を把握し、重症化リスクを評価することが課題とされてきた。FASTスコアは、超音波を利用した肝臓の硬さの測定と脂肪量、肝臓障害のマーカーとなる血液中のAST値を組み合わせ、脂肪肝炎の活動性や線維化を非侵襲的に評価する指標として用いられている。
腸と肝臓は門脈や胆汁酸の循環などを通じて密接につながっており、この「腸肝軸」を介して腸内細菌叢がMASLDを起点とした肝線維化や肝硬変の進行に関わると考えられている。これまでの研究では、疾患群と健康群の間で増減する細菌や、細菌叢の多様性の違いが主に調べられてきたが、こうしたグループ間の比較では病態の進行に伴う群集全体の変化を十分に捉えにくいという課題があった。今回の研究は、細菌の組み合わせを一つの「群集状態」として扱うエネルギー地形解析を用いることで、この課題に対応する手法として位置づけられる。
また、中間から高FAST型に特徴的な群集状態の一部は、臨床的に低FASTとされる範囲内から現れ始めていた。臨床的な意義の判断には、より大規模な集団での検証が必要とされる一方で、腸内細菌叢の再編が既存の臨床閾値を超える前から捉えられる可能性を示す結果として位置づけられている。
事実関係の整理
- 情報の種類:学術研究発表(論文)
- 発表元:理化学研究所、大阪公立大学、慶應義塾大学先端生命科学研究所
- 対象:成人104人の腸内細菌叢データとFASTスコア
- 主要手法・指標:拡張型エネルギー地形解析、群集形成指数(CSI)、探索型因果構造解析(FASK)、16S rRNA遺伝子解析
- 掲載誌:『Scientific Reports』オンライン版(2026年9月25日付)
- 留意点:横断的観測データに基づく結果であり、直接的な因果関係の証明には縦断研究や介入実験が必要とされる
参考文献