大阪大学が腎臓の濾過細胞ポドサイトの脱落機序を解明、NSF減少とインテグリン成熟阻害の悪循環を確認
大阪大学大学院医学系研究科の研究グループが、腎臓の濾過フィルターとして働くポドサイト(糸球体上皮細胞)が障害を受けて脱落する仕組みを明らかにしたと発表した。
小胞輸送に関わる因子NSFの減少が細胞接着因子インテグリンの成熟を阻害し、接着能の低下がさらなるNSFの減少を招く負のループが形成されることを、マウスと腎不全患者の遺伝子発現データから確認したという。
NSF減少とインテグリン成熟阻害の関連を確認
大阪大学大学院医学系研究科の今井淳裕(博士後期課程)、松井功准教授、猪阪善隆教授らの研究グループは、ポドサイト障害により腎不全に至るマウスの腎臓について1細胞レベルで遺伝子発現を網羅的に解析した。その結果、障害を受けたポドサイトでNSF(N-ethylmaleimide sensitive factor)という遺伝子の発現が減少していることを確認した。この変化は、糖尿病関連腎臓病や高血圧関連腎臓病の患者のポドサイトでも同様に観察され、障害ポドサイトに共通する変化と考えられたという。
NSFは細胞内の小胞輸送に重要な分子であることから、研究グループはポドサイト特異的にNSFを欠失させたマウスを作成し、その影響を検証した。このマウスは生後数週間で多量の尿タンパクを示して腎不全に至り、ポドサイトの接着能低下と数の減少も認められたという。解析の結果、NSFの欠失により小胞体からゴルジ体への輸送が著しく遅延し、ポドサイトの接着に必須のタンパク質であるインテグリンの成熟が阻害されることが明らかになったとしている。さらに、インテグリンが減少したポドサイトでは接着シグナルの低下によりNSFがさらに減少するという負のループが形成されると考えられた。
腎不全患者や高齢者で確認されてきたポドサイト数減少の背景
腎臓は1日に約100リットルの血液を濾過し、体内の老廃物を尿中へ排泄する役割を担う。この濾過機構において、血中に必要なタンパク質が尿中に漏れ出ないようフィルターの役割を果たしているのがポドサイトである。糸球体という構造の中で、ポドサイトは血管内皮細胞と基底膜とともにフィルター構造を形成しており、ポドサイトに障害が加わるとこの構造が破綻し、血中のタンパクが尿中に漏れ出て、最終的には腎不全に至るとされる。こうした構造を踏まえると、ポドサイトが機能を維持するには、濾過による圧力に耐えながら基底膜にしっかりと接着し続けることが重要とされてきた。
これまでの研究で、腎不全患者や高齢者の腎臓ではポドサイトの数が減少していることが知られており、ポドサイト数は腎機能と密接に関わると考えられてきた。一般に、ポドサイト数の減少には主にポドサイトの脱落が関わっているとされてきたが、ポドサイトが障害を受けた結果として脱落に至る具体的なメカニズムについては、これまで十分には明らかになっていなかった。今回の研究は、この脱落に至る過程の一端を、接着異常と小胞輸送障害の相互作用として整理したものと位置づけられる。
事実関係の整理
- 情報の種類:大学の研究発表(学術論文)
- 発表元:大阪大学大学院医学系研究科
- 研究グループ:今井淳裕(博士後期課程)、松井功准教授、猪阪善隆教授ら
- 対象:ポドサイト障害モデルマウス、ポドサイト特異的NSF欠失マウス、糖尿病関連腎臓病・高血圧関連腎臓病患者の遺伝子発現データ
- 主要な知見:障害ポドサイトでのNSF減少、インテグリン成熟阻害、接着能低下とNSF減少の負のループ形成
- 掲載誌:『Kidney International』(2026年7月24日オンライン公開)
- 留意点:現時点では基礎研究段階であり、治療法としての効果や安全性は示されていない
参考文献