順天堂大学、悪性黒色腫と表皮細胞の間でLL-37を介した相互作用を発見、腫瘍進展への関与を報告
順天堂大学大学院医学研究科アトピー疾患研究センターの研究グループが、悪性黒色腫(メラノーマ)と周囲の表皮角化細胞(ケラチノサイト)との間で、抗菌ペプチドLL-37を介した新たな相互作用が生じていることを報告した。
メラノーマ患者から採取した組織の解析では、腫瘍に近い表皮ほどLL-37の発現が低下していることが確認された。一方でケラチノサイト由来のLL-37は、メラノーマ細胞の増殖や浸潤を抑える方向に働くことが、細胞実験とマウスモデルの双方で示された。研究成果は『Cell Reports』誌のオンライン版に2026年8月に公開された。
腫瘍近傍表皮でLL-37の発現低下とその機序を確認
研究グループは、悪性黒色腫患者から採取した組織を用い、免疫組織化学染色によってLL-37の分布を解析した。その結果、腫瘍に近い表皮では、腫瘍から離れた部位の表皮に比べてLL-37の発現が顕著に低下しており、腫瘍から離れるほど発現が高い傾向がみられた。この結果は、メラノーマが周囲のケラチノサイトに局所的な影響を及ぼし、表皮の防御機能を弱めている可能性を示すものとされた。
続いてケラチノサイトとメラノーマ細胞を用いた共培養実験、培養上清の解析、およびエクソソームの分離実験が行われた。この結果、メラノーマ細胞が放出するエクソソームによって、ケラチノサイトのLL-37産生が低下することが確認された。メラノーマ細胞からのエクソソーム放出を阻害すると、このLL-37の抑制作用は弱まり、エクソソームが主要な情報伝達媒体であることが示された。
さらにエクソソームに含まれるmicroRNAを解析し、hsa-miR-221-5pを候補分子として同定した。ケラチノサイト内でhsa-miR-221-5pを増加させるとLL-37産生が低下し、反対にメラノーマ細胞側でhsa-miR-221-5pを抑制すると、ケラチノサイトのLL-37産生が回復したことが確認された。この作用には、細胞増殖や分化を調節するEGFRシグナルの持続的な活性化低下が、少なくとも一部関与していると考えられるとされた。
LL-37自体のメラノーマに対する作用についても検討された。LL-37はメラノーマ細胞の増殖、遊走および浸潤を抑制するとともに、マウスモデルにおいて腫瘍の増殖を抑えることが確認された。ケラチノサイト由来LL-37を欠くマウスではメラノーマの増殖が促進された一方、LL-37を腫瘍内に投与すると腫瘍の増殖が抑制された。これらの結果は、ケラチノサイト由来のLL-37が生体内でメラノーマの進展を抑える方向に関与することを示すものとされた。
分子機構の解析では、LL-37がメラノーマ細胞の生存や悪性化に関与するP2X7–PI3K–AKTシグナルを抑制するとともに、細胞の生存を支えるオートファジー活性を低下させることが示された。また、ケラチノサイト由来LL-37を欠くマウスの腫瘍では、抗腫瘍性の免疫細胞とされるM1マクロファージおよびN1好中球が減少しており、LL-37が腫瘍免疫環境の形成にも関与する可能性が示された。
腫瘍と表皮防御をめぐる位置づけ
メラノーマは色素細胞(メラノサイト)から発生する悪性腫瘍で、進行すると転移が生じやすく、致死率が高いとされる。近年は免疫治療などの進歩により治療成績は向上しているものの、進行例では治療抵抗性が課題として残っている。正常な皮膚ではメラノサイトが周囲のケラチノサイトと密接に連携しているが、腫瘍化したメラノサイトが隣接するケラチノサイトの表皮防御機能にどのような影響を及ぼすかは、これまで十分に分かっていなかった。
ケラチノサイトが産生するLL-37は、抗菌作用に加えて免疫調節や組織修復にも関与するとされる分子であり、正常な皮膚防御において一定の役割を担う。今回の研究は、この分子を軸に、メラノーマとケラチノサイトの相互作用を検討したものであり、腫瘍側と表皮側の双方向の影響関係を扱う位置づけにある。
事実関係の整理
- 情報の種類:大学の研究発表(学術論文)
- 発表元:順天堂大学大学院医学研究科アトピー疾患研究センター
- 対象:悪性黒色腫患者から採取した組織、ケラチノサイトおよびメラノーマ細胞、マウスモデル
- 主要知見:腫瘍近傍表皮でのLL-37発現低下、メラノーマ由来エクソソーム中のhsa-miR-221-5pによるケラチノサイトのLL-37産生抑制、ケラチノサイト由来LL-37によるメラノーマ進展抑制
- 掲載誌:Cell Reports(オンライン版、2026年8月)
- 留意点:本研究は基礎的な細胞・動物実験に基づくものであり、患者由来検体を用いたさらなる検証が今後の課題とされている
参考文献