大阪公立大学、飲み込み型医療デバイス向け無線通信の性能向上に成功、体内位置に応じた波形最適化で平均40.3Mbpsを達成
大阪公立大学大学院情報学研究科の研究グループが、カプセル内視鏡などの飲み込み型医療デバイスが体内の情報を体外へ送るための無線通信技術を開発したと発表した。
体内では電波が減衰しやすく安定した通信が難しいという課題に対し、電波の送り方と使用エネルギーを最適化することで通信速度と受信性能を向上させたとしている。研究成果は2026年6月1日に国際学術誌『IEEE Journal of Electromagnetics, RF and Microwaves in Medicine and Biology』にオンライン掲載された。
体内位置に応じた波形最適化で平均40.3Mbpsを達成
研究グループは、超広帯域通信(UWB:Ultra WideBand)に着目し、送信電力、中心周波数、帯域幅の3つのパラメータを調整することで、生体通信に用いるUWB波形の最適化を目指した。送信電力の最適化には、微弱無線局に関する電波法上の規制と、電波防護指針に基づく比吸収率(SAR:Specific Absorption Rate)の考え方を取り入れたとしている。
体内のあらゆる位置に対して個別に波形を用意すると回路やアンテナが複雑になるため、多数の候補の中から性能に大きく影響する切り替えのみを残す「動的スパース制御」を導入した。その結果、体表からのおおよその深さを3区分に分け、深い位置では人体内で減衰しにくい低い周波数を、浅い位置ではより高い周波数へ切り替える方式を開発したという。解剖学的人体数値モデルに基づく電磁界解析により、この方式の有効性を確認したとしている。
全送信地点ごとに個別の最適化を行うことなく、動的スパース制御による重要なUWB波形のみを切り替えることで、平均40.3Mbpsのスループットを達成できたと報告している。
飲み込み型医療デバイスにおける通信技術の課題
カプセル内視鏡や飲み込み型温度計、ディジタル錠剤といった飲み込み型医療デバイスは、低侵襲で患者の負担が少ない医療技術として近年注目されている。これらのデバイスの普及や高度化には、体内から体外へ安定かつ高品質に情報を伝送する無線通信技術の確立が課題とされてきた。
スマートフォンの5GやWi-Fiで利用されるGHz帯(1GHz=10億Hz)の電波は、人体組織を通過する際に大きく減衰するため、安定した通信が難しくなるとされる。体の深い位置から高画質の画像を送る場合、従来の周波数帯では通信速度が不足しやすく、広い周波数帯を使える超広帯域通信(UWB)でも信号の減衰が課題となっていた。単純に送信電力を強くすればよいわけではなく、微弱無線局に関する電波法上の規制と、電波防護指針に基づく比吸収率(SAR)の安全基準を同時に満たす必要があり、体内の位置に応じて安全かつ効率のよい送信条件を選ぶ技術が求められていたという。
事実関係の整理
- 情報の種類:大学発の研究成果発表(国際学術誌掲載論文)
- 発表主体:大阪公立大学大学院情報学研究科(小林匠准教授、Jaakko Hyry特任助教、藤本まなと准教授、阿多信吾教授、安在大祐教授)
- 対象技術:飲み込み型医療デバイス(カプセル内視鏡、飲み込み型温度計、ディジタル錠剤等)向け超広帯域通信(UWB)
- 主要成果:送信電力・中心周波数・帯域幅の最適化と動的スパース制御の導入により、平均40.3Mbpsのスループットを達成
- 掲載誌:『IEEE Journal of Electromagnetics, RF and Microwaves in Medicine and Biology』(2026年6月1日オンライン掲載)
- 資金情報:JST(科学技術振興機構)ムーンショット型研究開発事業、総務省の電波資源拡大のための研究開発、JSPS科研費の助成を受けて実施
- 留意点:解剖学的人体数値モデルに基づく電磁界解析による検証結果であり、実機を用いた臨床応用の段階については本文中に記載がない
参考文献