研究

京都大学ASHBiがAMLのエピゲノム解析研究を発表──16分類と予後・薬剤感受性の関連を整理

病気の克服を目指す研究動向。写真はイメージです。(写真:Adobe Stock)

 京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(ASHBi)の小川誠司教授らの研究グループは、スウェーデン・カロリンスカ研究所(Karolinska Institutet)や東京大学医科学研究所などとの共同研究として、急性骨髄性白血病(AML)患者由来の検体を対象とした大規模なクロマチン解析の結果を発表した。

 1563例のAML検体を解析し、遺伝子の使われ方を制御する「エピゲノム」の状態に基づいてAMLが16のサブグループに分類されることを示し、各サブグループが異なる予後や薬剤感受性と関連することを報告した。

1563例のクロマチン解析で示されたAMLの16分類

 研究グループは、クロマチンの開いた領域を網羅的に解析できるATACシーケンスという手法を用いて、1563例のAML検体のクロマチン状態を解析した。その結果、AMLはクロマチン状態の特性に基づいて16種類のサブグループに分類できることが示された。あわせて実施した単一細胞解析では、数千個の白血病細胞について遺伝子発現とクロマチン状態を調べ、各サブグループがグループ内で共通した特徴的なクロマチン状態によって識別されることが確認されたという。

 これらのサブグループは、遺伝子変異、分化状態、遺伝子発現、DNAメチル化パターン、転写制御ネットワークがそれぞれ異なっていた。研究グループは、多くのサブグループが従来のゲノム異常に基づく分類とは完全には一致しなかったとし、遺伝子変異の情報だけでは捉えきれないAMLの多様性が存在することを示す結果だと説明している。さらに、各サブグループでは異なる転写因子ネットワークやスーパーエンハンサー構造が形成されていることも確認されたとしている。

 このクロマチン状態に基づく分類は患者の予後とも関連しており、既存のゲノムに基づくリスク分類にクロマチン情報を加えることで予後予測の精度が向上したと報告している。また、一部のサブグループではABL阻害薬やMEK阻害薬といった分子標的薬に対する特異的な感受性が認められたとし、研究グループはサブグループに応じた層別化治療への応用可能性を示す結果だと位置づけている。

ゲノム解析に続くエピゲノム解析としての位置づけ

 AMLは、造血幹細胞から赤血球・白血球・血小板などの正常な血球への分化が障害される一方で、未分化な血球が異常に増殖することで発症すると考えられてきた難治性の血液がんの一つである。次世代シーケンサーを用いたゲノム解析技術の進歩により、AMLの発症に関わる遺伝子変異や染色体異常が数多く見つかり、それらを標的とする治療薬剤の開発も進んできた経緯がある。一方で、DNAメチル化やヒストン修飾などを含む「エピゲノム」の異常についても、細胞の分化や増殖に影響し、AMLの発症や多様性に関わると考えられてきたものの、大規模かつ体系的な解析はこれまで行われていなかった。

 今回の研究は、1563例という規模でクロマチン解析を実施した点に加え、遺伝子変異解析、RNAシーケンス、DNAメチル化解析、単一細胞解析などのマルチオミクス解析を統合した点に特徴がある。研究グループは、遺伝子変異という「ゲノムの異常」だけでなく、クロマチン状態という「エピゲノムの変化」も白血病の病態や個性の理解において重要な要素であることを示した研究だと説明している。研究グループは、今回構築した大規模なマルチオミクスデータベースについて、AMLをはじめとするがんのエピゲノム研究における基盤リソースになるとの見通しを示している。

事実関係の整理

  • 情報の種類:学術研究(ゲノム・エピゲノム統合解析)
  • 発表元:京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(ASHBi)、京都大学大学院医学研究科、カロリンスカ研究所(Karolinska Institutet)、東京大学医科学研究所ほか国内外の共同研究グループ
  • 対象:急性骨髄性白血病(AML)患者検体1563例
  • 主要手法・指標:ATACシーケンスによるクロマチン状態解析、単一細胞解析、16のサブグループ分類、予後予測精度、分子標的薬への感受性
  • 掲載誌・時期:英国学術誌『Nature』、2026年7月8日(日本時間7月9日)掲載
  • 留意点:研究グループは本研究が主に観察研究であるとし、各サブグループの転写因子ネットワークやスーパーエンハンサー構造、薬剤感受性の機能的意義についてはさらなる実験的検証が必要としているほか、クロマチン状態に基づく分類を日常診療へ応用するには技術的・コスト的な課題が残るとしている

参考文献

京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(ASHBi)
https://ashbi.kyoto-u.ac.jp/ja/news_research/23241/


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