京都大学ら、PyrinとCDC42の相互作用が炎症の引き金となる仕組みを解明、家族性地中海熱の変異アトラスも構築
京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)などの国際共同研究チームが、炎症センサーとして働くタンパク質「Pyrin(パイリン)」と、細胞の形や動きを制御する「CDC42」というタンパク質が相互作用することで、炎症反応の“スイッチ”が入る仕組みを明らかにした。
研究チームは、原因不明の強い炎症を示す患者の遺伝子解析と、MEFV遺伝子の265種類の変異を対象とした網羅的な機能解析という2つの異なる手法から、同じ結論に到達したと発表している。家族性地中海熱(FMF)をはじめとする遺伝性自己炎症性疾患の診断や治療への応用が期待されるとしている。
PyrinとCDC42の相互作用が炎症の引き金であることを確認
京都大学の本田吉孝特定助教、岩田直也・青木茉莉子大学院生、八角高裕特定教授、東北大学の朽津芳彦助教・田口友彦教授、横浜市立大学の松本直通教授らを中心とする国際共同研究チームは、炎症を誘導するタンパク質「Pyrin」の働きを制御する新たな仕組みを明らかにしたと発表した。研究チームは、原因不明の強い炎症と軽度の発達遅滞などを示す3家系6人の解析から、CDC42遺伝子に新たな変異があることを見出した。AIによるタンパク質構造予測(AlphaFold3)や免疫染色、共局在解析を組み合わせた結果、CDC42とPyrinのB30.2領域との相互作用が炎症反応のスイッチとして機能することが示された。
さらに、ゲノム情報データベース「Infevers(インフィーバーズ)」に登録されているMEFV遺伝子のミスセンス変異265種類すべてについて、ヒトモデル細胞を用いて炎症誘導能を定量的に測定し、機能を整理した“アトラス”を構築した。その結果、強い炎症を起こす変異はCDC42が作用するポケット周囲に集中しており、CDC42との相互作用によってPyrin-CDC42クラスターが形成され、Pyrinの凝集が促進されることでインフラマソームの活性化に至ることが示された。患者から見つかったCDC42変異では、PyrinとCDC42の相互作用が異常に強まり、Pyrinが凝集しやすい状態になっていたことも確認された。
約30年にわたり未解明だった炎症スイッチの仕組み
炎症は、細菌やウイルスなどの外敵から体を守るための防御反応である。細胞は外敵を察知すると、インフラマソームと呼ばれるタンパク質複合体を形成し炎症反応を起こす。Pyrinはこの中で“センサー”として働き、通常は外敵がいない状態では働かないが、家族性地中海熱ではPyrinをコードするMEFV遺伝子に変異が生じることで、わずかな刺激でも過剰に炎症のスイッチが入り、高熱や激しい腹痛が繰り返される。家族性地中海熱は指定難病(266)に分類されており、2009年の全国調査では国内で500人程度の患者が報告されている。
MEFV遺伝子には約400種類の変異が報告されているが、患者数が少ないことや、ヒトとモデル生物でPyrinの構造が大きく異なることから、どの変異が実際に病気の原因となるのか、また家族性地中海熱に特徴的な変異がどのようにして炎症を引き起こすのかという2つの点は、1997年のMEFV遺伝子発見以来、長年解明されていなかった。CDC42がPyrinの働きを調整することはこれまでも報告されていたが、その詳しい仕組みは明らかになっていなかった。
今回の成果は、患者の症状から出発した解析と、大規模なゲノムデータベースから出発した解析という異なるアプローチが、いずれも「PyrinとCDC42の異常な相互作用」という共通の結論に至った点に特徴がある。研究チームは、こうした手法を、患者数が少なく診断が難しい他の希少疾患の解析にも応用できる可能性があるとしている。
事実関係の整理
- 情報の種類:国際共同研究の論文発表(2本組)
- 発表主体:京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)、東北大学、横浜市立大学、愛知県医療療育総合センターなどの国際共同研究チーム
- 対象:原因不明の強い炎症を示す患者3家系6人、MEFV遺伝子のミスセンス変異265種類
- 主要成果:CDC42とPyrinのB30.2領域の相互作用が炎症スイッチとして機能することを確認、MEFV遺伝子変異の機能アトラスを構築
- 掲載誌:Science Immunology(2026年8月7日午後2時米国東部時間、日本時間8月8日午前3時掲載)
参考文献