研究

理研など、シナプスのナノ構造から統合失調症と自閉スペクトラム症のマウスモデルを区別できることを報告

病気の克服を目指す研究動向。写真はイメージです。(写真:Adobe Stock)

 理化学研究所(理研)、兵庫県立大学、東京農業大学などの共同研究グループは、神経細胞同士がつながるシナプスのナノメートルレベルの構造を超解像顕微鏡で検出し、精神疾患のリスク遺伝子に変異を持つマウスに応用することで、シナプスの形態が疾患分類に役立つ情報を持つことを示した。

 統合失調症と自閉スペクトラム症に関連するリスク遺伝子を持つマウスモデルでは、それぞれ異なるシナプスのナノ構造の変化が確認され、統合失調症関連モデルでは細く小さいスパインの増加と、Ecrg4という遺伝子の発現上昇との関連も報告された。本研究成果は科学雑誌『eLIFE』オンライン版(8月11日付)に掲載された。

スパインの形態変化が疾患モデルの分類に関連

 理研脳神経科学研究センター神経動態イメージング研究チームの岡部繁男チームディレクター、兵庫県立大学大学院情報科学研究科の郷康広教授(自然科学研究機構生命創成探究センター教授、同機構生理学研究所教授)、東京農業大学生命科学部バイオサイエンス学科の中澤敬信教授らの共同研究グループは、マウスの海馬の神経細胞を培養してシナプスをつくらせ、その形態を超解像顕微鏡でイメージングした。得られた画像の処理を自動化し、1,000個以上のスパインの形態を集団として比較することを可能にした。

 この技術を用いて、統合失調症関連の遺伝子変異や染色体の欠失・重複を持つ4種類のマウスモデルと、自閉スペクトラム症関連の4種類のマウスモデル、合わせて8種類の精神疾患・発達障害モデルのスパイン形態を比較した。スパインを形の違いに応じて2次元平面上にマッピングし、疾患モデルとコントロールの差分マップを作成したところ、統合失調症と自閉スペクトラム症に関連するマウスモデルの群が明確に分かれることが確認された。統合失調症関連モデルの差分マップは互いによく似ており、細く小さいスパインが増えているという共通の特徴が見られた。

 さらに遺伝子発現パターンを調べたところ、四つの統合失調症関連マウスモデルのうち三つ以上で共通して発現が上昇し、かつ自閉スペクトラム症関連モデルでは発現上昇が見られない遺伝子として、三つの候補が同定された。このうちEcrg4は神経細胞から分泌されるペプチドをつくる遺伝子で、軸索や樹状突起内だけでなく細胞外にも存在することが確認された。統合失調症関連モデルでEcrg4の発現を抑制すると、変化していたスパインの形が正常化することが確認された。

シナプス研究における位置づけ

 脳が情報処理を適切に行うには、多数の神経細胞が相互につながって神経回路を形成する必要がある。情報を受け取る側の樹状突起は、軸索と接触する場所にスパインと呼ばれる微小な突起を形成するが、その大きさは1マイクロメートル程度と小さく、従来の光学顕微鏡では細かい構造の観察が難しかった。近年、従来の光学顕微鏡より高い解像度を持つ超解像顕微鏡が開発され、シナプスやスパインの構造観察に用いられ始めているが、脳の病気に関するシナプスの変化を捉える研究はこれまで十分には進んでいなかった。

 精神疾患や発達障害は、神経細胞が死んでしまう認知症や血管障害とは異なり、神経回路の機能的な変化によって起こると考えられている。これまでの研究では、神経回路の機能変化に伴いシナプスやスパインの構造が変化することが報告されてきたが、精神疾患・発達障害に関連するリスク遺伝子とシナプス形態との関係を示す明確な証拠はこれまで示されていなかった。死後脳を用いた過去の研究では、統合失調症でスパイン密度が低下し、自閉スペクトラム症では上昇するという報告があるが、今回の研究はマウス由来の培養海馬神経細胞を対象としているため、死後脳の知見との直接の比較はできないとしている。研究グループは、培養細胞を用いた実験が脳の早期発達過程を反映していることから、統合失調症関連モデルで見られた幼弱なシナプスに特徴的な細く小さいスパインの増加が、維持されずに失われることで成人後のスパイン密度低下につながる可能性があるとしている。

事実関係の整理

  • 情報の種類:研究発表(学術論文)
  • 公表元:理化学研究所、兵庫県立大学、自然科学研究機構生命創成探究センター、自然科学研究機構生理学研究所、東京農業大学
  • 対象:統合失調症関連4種類、自閉スペクトラム症関連4種類、計8種類の精神疾患・発達障害マウスモデルの海馬培養神経細胞
  • 主要手法・指標:超解像顕微鏡によるスパイン形態イメージング、1,000個以上のスパイン形態の集団比較、差分マップ解析、遺伝子発現解析
  • 主要結果:統合失調症関連モデルで細く小さいスパインの増加とEcrg4遺伝子の発現上昇との関連を確認、Ecrg4発現抑制でスパイン形態が正常化
  • 掲載誌:『eLIFE』オンライン版(2026年8月11日付)
  • 留意点:マウスの培養細胞を用いた研究であり、死後脳研究の知見とは直接比較できない

参考文献


ARCHIVE

新着記事

日本での医療や観光から探す

研究や開発から探す

関連の国から探す

関連の制度から探す