理研など、予想外の音を検出する脳回路を特定、統合失調症モデルマウスでは機能低下を確認
理化学研究所(理研)脳神経科学研究センターの岡部繁男チームディレクターらの共同研究グループが、脳が予想外の音を検出するための神経回路をマウスの大脳皮質内に特定した。
この神経回路は統合失調症のモデルマウスでは機能が低下していることも確認された。成果は科学雑誌『Science Advances』オンライン版(8月14日付)に掲載された。
高次聴覚野浅層のクラスターが予想外の音を検出
理化学研究所(理研)脳神経科学研究センター神経動態イメージング研究チームの岡部繁男チームディレクター、東京大学大学院医学系研究科の水谷俊介特任研究員(研究当時)、同研究科の笠井清登教授(東京大学医学部附属病院精神神経科科長、同大学国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構(WPI-IRCN)主任研究者)、兵庫県立大学大学院情報科学研究科の郷康広教授(自然科学研究機構生命創成探究センター教授、同機構生理学研究所教授)らの共同研究グループが、二光子顕微鏡によるカルシウムイメージングを用いてマウスの聴覚野の神経細胞活動を観察した。
人のミスマッチ陰性電位誘発と同様の音提示方法をマウスに適用し、繰り返し音の中に逸脱音を挟んで提示した結果、高次聴覚野の浅層に存在する神経細胞が逸脱音に特に強く反応することが確認された。これらの逸脱音検出細胞は互いに近接してクラスターを形成し、活動が同期していた。低次聴覚野ではこのような明確なクラスターは見られなかった。
統合失調症モデルマウスでは、この高次聴覚野浅層の神経細胞の反応が大きく減弱していた。逸脱検出細胞の数は少なく、クラスター化や細胞間の活動の同期性も低下していた。さらに1細胞レベルの遺伝子発現解析から、大脳皮質浅層に存在する「Baz1a」という分子マーカーを発現する細胞集団が逸脱音検出細胞と重なること、このBaz1a陽性細胞の数が統合失調症モデルマウスで特異的に減少していることも示された。
ミスマッチ陰性電位と統合失調症研究の位置づけ
同じ高さの音を繰り返し聞かせた中に時々異なる高さの音を挟むと、その音を聞いた際に特異的な脳波が観察される現象は「ミスマッチ陰性電位」と呼ばれる。この反応は被験者が音の違いに気付かない程度のわずかな差でも検出でき、注意を向けていなくても誘発されるため、脳の自動的な変化検知機能を反映する指標と考えられている。
統合失調症の患者ではこのミスマッチ陰性電位の反応が減弱することが知られており、信頼性の高いバイオマーカーの一つとされている。これまでの理論モデルでは、脳が次に聞こえるであろう音を予想し、その予想と実際の音との違いを誤差として検出する領域が存在するとされてきたが、この誤差検出を担う神経回路の所在や信号の実体は明らかになっていなかった。
統合失調症モデルマウスには、人の22番染色体の一部が欠失する22q11.2領域の微小欠失を再現するモデルが用いられた。この染色体異常は心疾患や免疫異常、発達障害を伴うことが多く、統合失調症の発症リスクを高めることが知られている。今回の研究は、このモデルマウスを用いて臨床のバイオマーカーに対応する反応を動物実験で再現し、神経回路レベルでの特徴を調べたものである。
事実関係の整理
- 情報の種類:大学・研究機関による共同研究発表
- 発表元:理化学研究所、東京大学、兵庫県立大学、自然科学研究機構生命創成探究センター、自然科学研究機構生理学研究所
- 対象:コントロールマウスおよび22q11.2領域微小欠失を再現した統合失調症モデルマウス
- 主要手法:ミスマッチ陰性電位様の音提示課題、二光子顕微鏡によるカルシウムイメージング、1細胞レベルの遺伝子発現解析
- 主要結果:高次聴覚野浅層の神経細胞クラスターが逸脱音検出に関与し、統合失調症モデルマウスではクラスター化・同期性・Baz1a陽性細胞数が低下
- 掲載誌:『Science Advances』オンライン版(2026年8月14日付)
参考文献