九州大学など、高齢者の高血圧治療でARB選択がCCBと比べ認知症発症リスク低下と関連と発表
統計数理研究所、九州大学、鳥取大学などの研究グループが、高齢者の高血圧治療薬の選択とその後の認知症発症リスクとの関連を分析した結果を発表した。
500万人規模の医療ビッグデータを用いた分析で、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)を新たに開始した群は、カルシウム拮抗薬(CCB)を新たに開始した群と比べ、全認知症の発症リスクが有意に低いことが示された。
ARB開始群でCCB開始群より認知症発症リスクが低下
統計数理研究所/総合研究大学院大学の野間久史氏、九州大学大学院医学研究院の福田治久氏、鳥取大学医学部附属病院の砂田寛司氏らの研究グループは、高齢者における高血圧治療薬の選択が、その後の認知症発症リスクに与える影響を分析した。研究では、日本の自治体が保有する医療・健診情報を統合した500万人規模の大規模医療データベース「LIFE Study」を用い、標的試験エミュレーションと呼ばれる統計的因果推論の方法により、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)とカルシウム拮抗薬(CCB)の効果を比較した。
分析の対象は、65歳以上で認知症のない高齢者52,019人であった。このうち、ARBによる治療を新たに開始した群は、CCBによる治療を新たに開始した群と比較して、全認知症の発症リスクが有意に低いことが示された。追跡期間中の血圧は両群でほぼ同等であったと報告されており、この差は血圧低下効果のみでは説明しにくいとされ、ARBが持つ脳血管保護作用などが関与している可能性が示唆されている。特に血管性認知症では、ARB群でリスクがより大きく低下していたという。
医療ビッグデータを用いた因果推論という位置づけ
認知症の予防は、世界的に高齢化が進む社会における課題の一つとされている。新しい認知症治療薬の開発が進む一方で、すでに多くの高齢者が日常的に使用している薬剤の中に、認知症リスクの低減につながり得るものがあるかを明らかにすることは、公衆衛生上の意義があるとされる。ARBとCCBはいずれも高血圧治療で広く用いられている代表的な降圧薬であり、ARBは血圧低下に加えて心臓、腎臓、血管への保護作用が期待される薬剤として位置づけられている。
本研究で用いられた標的試験エミュレーションは、リアルワールドの膨大な診療データを用いて、あたかも理想的なランダム化臨床試験を行ったかのようにデータを構成し分析する方法である。実際の臨床試験の実施が難しい高齢者医療の条件下でも、結論を歪め得るバイアスをできる限り制御しながら治療効果に関するエビデンスを構築するために用いられるとされる。今回の分析でも、患者背景の違いによる影響を統計的に調整したうえで、ARB群とCCB群の比較が行われている。
事実関係の整理
- 情報の種類:研究発表(学術論文)
- 発表主体:統計数理研究所/総合研究大学院大学、九州大学大学院医学研究院、鳥取大学医学部附属病院の研究グループ
- 対象:65歳以上で認知症のない高齢者52,019人
- 使用データ・方法:500万人規模の医療データベース「LIFE Study」、標的試験エミュレーションによるARBとCCBの比較分析
- 主要結果:ARB新規開始群はCCB新規開始群と比べ全認知症の発症リスクが有意に低下、血管性認知症ではより大きな低下
- 留意点:追跡期間中の血圧は両群でほぼ同等であり、血圧低下効果のみでは差を説明しにくいとされる。観察データに基づく分析であり、因果関係の解釈には一定の限界がある
- 掲載誌:『Alzheimer’s & Dementia: The Journal of the Alzheimer’s Association』(2026年8月20日オンライン掲載)
参考文献
九州大学(Kyushu University)
https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/1523