理化学研究所が神経活動時のタンパク質合成解析技術を発表──新規短鎖ペプチドの局在を整理
理化学研究所(理研)脳神経科学研究センターと新潟大学脳研究所の共同研究グループが、神経細胞が活動した際に合成されるタンパク質を詳しく調べるための新しい解析技術を開発したと発表した。
マウスの海馬を用いた実験では、学習や記憶に関わるタンパク質の合成量の変化に加え、これまで見逃されていた短いペプチドの存在が確認され、その一つがペルオキシソームという細胞内小器官で働いていることが示された。成果は科学雑誌『Nature Communications』オンライン版(2026年7月23日付)に掲載されている。
神経活動に応じたタンパク質合成を網羅的に解析
理研脳神経科学研究センター タンパク質構造疾患研究チームの田中元雅チームディレクターらと、新潟大学脳研究所の三國貴康教授、内田仁司助教らの共同研究グループは、生後5日目のマウス由来の海馬培養スライスを用い、神経細胞に目印となるタンパク質(EGFP-L10a)を付けたうえで、化学的な刺激(cLTP)によって活性化した神経細胞だけに別の目印が現れるように設計した解析技術「Ribo-seq」を開発したと発表した。
この技術により、活性化した神経細胞が持つリボソームだけを選び出してRNAを解析することが可能になり、Fosやアークタンパク質(Arc)を含む399種類のタンパク質の合成が神経活動に伴って増加していることが確認された。あわせて、これまでタンパク質をつくらないと考えられていた遺伝情報の領域からも、約30個のupstream ORF(uORF)と約100個の非コードRNAにおける翻訳が見いだされたと報告している。
このうち「Egr1-uORF」と呼ばれる短いペプチドについては、そのカルボキシル末端にペルオキシソームへ運ばれるための目印となる3つのアミノ酸配列が備わっており、実際にペルオキシソームへ局在することが免疫染色実験によって確認された。この目印を取り除いた改変型では、ペルオキシソームへの局在が失われたことも示されたという。
神経活動とタンパク質合成をめぐるこれまでの状況
新しいことを学んだり記憶したりする際、脳の神経細胞は活発に働き、その過程で遺伝情報を基にした新たなタンパク質の合成が進むことが知られている。こうしたタンパク質は神経細胞間の情報伝達や記憶の形成に関わるとされてきたが、刺激によって実際に活性化する神経細胞は脳全体のごく一部にとどまるため、それらの細胞だけを選び出して解析する手法がこれまで確立されていなかった。
また、リボソームプロファイリングを用いた先行研究では、従来タンパク質をつくらないと考えられてきた遺伝情報の領域からも、小さなタンパク質やペプチドがつくられていることが報告されていた。しかし、神経細胞が活性化した際にこうした領域からどのようなタンパク質が生じるのかについては、十分に明らかにされていなかったとされる。
今回開発されたRibo-seqは、活性化した神経細胞のリボソームをHALOビーズによって選択的に回収し、その中に含まれるRNAを解析することで、神経活動に伴うタンパク質合成の変化を捉える技術である。テトロドトキシンで神経活動を抑えた脳組織との比較では、主成分分析によって両者が明確に異なるクラスターを形成したことが確認され、神経活動の有無による翻訳の違いが示されたとしている。
事実関係の整理
- 情報の種類:基礎研究(神経科学・タンパク質科学)に関する研究発表
- 公表元:理化学研究所、新潟大学
- 対象:生後5日目のマウス由来の海馬培養スライス
- 主要な知見:Ribo-seqによる399種類のタンパク質合成増加の確認、約30個のuORFと約100個の非コードRNAの翻訳、Egr1-uORFのペルオキシソーム局在
- 掲載誌:『Nature Communications』オンライン版(2026年7月23日付)
- 留意点:マウスの培養スライスを用いた基礎研究段階の知見であり、生体への応用やヒトでの意義については今後の検討課題とされている
参考文献
理化学研究所 プレスリリース「脳が活発に働くときにつくられるタンパク質を発見」
https://www.riken.jp/press/2026/20260723_1/index.html