大阪大学など、KEAP1異常肺がんでKRAS G12C阻害薬が効きにくくなる代謝機構を発見
金沢大学、大阪大学、公益財団法人がん研究会などの共同研究グループが、KEAP1遺伝子が不活性化した肺がんにおいて、ピルビン酸カルボキシラーゼ(PC)を介した代謝経路がKRAS G12C阻害薬への治療抵抗性を生み出すことを明らかにした。
KEAP1が失われたがん細胞ではPCの発現が増加し、薬剤治療下でも増殖に必要な物質を作り続けられることが示された。PCを欠損させると薬剤への感受性が回復し、マウスを用いた実験でも腫瘍増殖の抑制が確認されたという。
KEAP1不活性化肺がんでPC依存の代謝経路が抵抗性を支えると判明
金沢大学大学院医薬保健学総合研究科のRenata Akhmetzianova(博士課程4年)、同大がん進展制御研究所の河野晋准教授、髙橋智聡教授、大阪大学大学院情報科学研究科の松田史生教授、岡橋伸幸准教授、谷口赳夫助教、公益財団法人がん研究会の北嶋俊輔プロジェクトリーダーらの共同研究グループは、KEAP1遺伝子が不活性化した肺がんにおいて、PCを介した代謝経路がKRAS G12C阻害薬への治療抵抗性を生み出す仕組みを報告した。
研究グループは、KEAP1が失われたがん細胞ではPCの発現が増加し、がん細胞が薬剤治療下でも増殖に必要な物質を作り続けられることを明らかにした。PCは、グルコースから生じるピルビン酸をオキサロ酢酸へと変換する酵素であり、オキサロ酢酸からアスパラギン酸を経て、DNAやRNAの材料となるピリミジンヌクレオチドの合成が維持されることが確認された。
さらに、PCを遺伝学的に欠損させると、肺がん細胞のKRAS G12C阻害薬への感受性が回復した。マウスを用いた腫瘍モデルの実験でも、PCの欠損によって薬剤による腫瘍増殖抑制効果が高まることが確認されたという。
KRAS変異肺がんと薬剤抵抗性をめぐるこれまでの研究
KRASは、肺がんをはじめとする多くのがんで変異が認められる代表的ながん遺伝子である。近年、KRAS G12C変異を直接阻害する分子標的薬としてソトラシブなどが開発され、KRAS変異がんに対する治療選択肢として使用されている。一方で、同じKRAS G12C変異を持つ肺がんでも治療効果には差があり、特にKEAP1やSTK11などの遺伝子異常を伴う肺がんでは、治療開始時からKRAS G12C阻害薬が効きにくいことが知られていた。
しかし、こうした遺伝子異常を持つがん細胞がなぜKRAS G12C阻害薬に抵抗性を示すのか、その細胞内メカニズムは十分に明らかになっていなかった。これまでKRAS G12C阻害薬への治療抵抗性については、主に細胞内シグナル伝達経路の変化が研究対象とされてきた経緯があり、今回の研究はKEAP1という遺伝子異常とPCを介した代謝経路を結びつけた点で、治療抵抗性を理解する上での別の視点を示すものとなる。
事実関係の整理
- 情報の種類:基礎研究(論文発表)
- 発表主体:金沢大学大学院医薬保健学総合研究科・がん進展制御研究所、大阪大学大学院情報科学研究科、公益財団法人がん研究会の共同研究グループ
- 対象:KEAP1遺伝子が不活性化したKRAS G12C変異肺がん細胞、マウス腫瘍モデル
- 主要指標:PC発現量、KRAS G12C阻害薬(ソトラシブ)への感受性、マウスでの腫瘍増殖抑制効果
- 掲載誌:『Cell Death & Disease』(Springer Nature社)、2026年10月2日19時(日本時間)オンライン掲載、DOI:10.1038/s41419-026-09299-4
- 資金支援:文部科学省科学研究費助成事業(JP20K07612、JP20H03509)、共同利用・共同研究システム形成事業~学際領域展開ハブ形成プログラム~(JPMXP1323015484)
参考文献