神戸大学、BCRレパートア解析で造血幹細胞移植後の液性免疫再構築を可視化する新手法を開発
神戸大学医学部附属病院腫瘍・血液内科の研究グループは、B細胞受容体(BCR)レパートアの配列が生まれる確率と、抗原刺激に伴う体細胞超変異の程度を1つの図に統合した「pGen-SHM plot」を開発したと発表した。
この手法を造血幹細胞移植を受けた患者の末梢血に適用したところ、臍帯血移植後は約2年かけて健常人に近い分布へ連続的に移行する様子が確認され、骨髄移植後の早期には由来が異なるとみられる2つの集団を識別できたと報告している。
移植後の液性免疫再構築を新指標で可視化
神戸大学の船越洋平講師、薬師神公和教授、大路剛講師らの研究グループは、Anymics株式会社の松谷高顕氏と共同で、BCRレパートアの成熟過程を可視化する新しい解析手法「pGen-SHM plot」を開発した。BCR配列は、V(D)J再構成によって多様な配列が生み出される過程と、抗原刺激後に免疫グロブリン遺伝子に変異が蓄積して親和性の高いB細胞が選択される過程という、2つの経路を経て多様性が形成される。研究グループは前者をV(D)J再構成によってその配列が生じる確率の推定値である「生成確率(pGen)」として、後者を参照遺伝子からの変異率である「体細胞超変異(SHM)」として数値化し、両者を2軸に配置してBCRレパートア全体の分布をカーネル密度推定により描いた。
神戸大学医学部附属病院で臍帯血移植を受けた6例(21検体、移植後67~662日)と、骨髄移植を受けた6例(14検体、移植後67~628日)について、末梢血のBCRレパートアをこの手法で解析した。臍帯血移植後では、移植後早期はpGenが高くSHMが低い分布に集中していたが、約2年間をかけてpGenが低くSHMが高い、健常人の分布に近い領域へ連続的に移行する様子が確認された。この傾向は、0~15歳の健常者の公開データで年齢とともに見られる分布の変化とも一致していたという。一方、骨髄移植後の早期(67~149日)には、pGenが高くSHMが低い集団と、pGenが低くSHMが高い集団の2つが明瞭に分かれて観察された。このうち前者は移植後約6カ月以内に目立たなくなり、後者は臍帯血移植後と同様に健常人側の分布へ向かう傾向を示したとしている。
移植後の免疫再構築評価における位置づけ
同種造血幹細胞移植では、患者がそれまでのワクチン接種や感染により獲得していた免疫がおおむね失われるとされる。そのため移植後に重症感染症のリスクが高い時期がどの程度続き、免疫がどこまで回復しているかを把握することは、感染予防やワクチン接種の方針を検討するうえで重要とされてきた。中でも抗体を中心とする液性免疫の回復は、免疫系全体の再構築が十分に進んでいるかを反映する指標の1つと考えられている。
これまでの評価は主に免疫細胞数などに依存しており、病原体に応答し得る多様なB細胞が機能的に成熟しているかどうかを直接示すことは難しかったとされる。BCRはB細胞が抗原と結合する部位を持つ受容体で、BCRレパートアにはB細胞が生まれてから選択され、成熟するまでの過程の履歴が反映されると考えられている。研究グループは、この情報を用いることで移植後の液性免疫再構築の過程を可視化できるのではないかと考えたとしている。今回示された結果のうち、骨髄移植後早期に観察された2つの集団については、免疫グロブリンのサブクラスの違いから、幹細胞由来の新生B細胞とドナー由来の既存の成熟B細胞にそれぞれ対応する可能性があるとされている。
事実関係の整理
- 情報の種類:研究発表(学術論文)
- 発表主体:神戸大学医学部附属病院腫瘍・血液内科(船越洋平講師、薬師神公和教授ら)、Anymics株式会社
- 対象:臍帯血移植6例(21検体、移植後67~662日)、骨髄移植6例(14検体、移植後67~628日)の末梢血BCRレパートア
- 主要指標:生成確率(pGen)、体細胞超変異(SHM)、両者を統合した「pGen-SHM plot」
- 留意点:解析対象は限られた症例数であり、免疫抑制剤やGVHD予防法、B細胞除去療法などの影響や、ワクチン応答・感染防御能との関連については今後の検証課題とされている
参考文献