研究

理研、GLUT1欠損症モデルマウスの網羅的解析でメスに特有の糖代謝・インスリン動態の変化を発見

病気の克服を目指す研究動向。写真はイメージです。(写真:Adobe Stock)

 理化学研究所(理研)バイオリソース研究センターの研究チームは、グルコーストランスポーター1欠損症(GLUT1欠損症)のモデルマウスを用いた網羅的表現型解析により、グルコース投与後の糖代謝とインスリン動態の変化がメス個体で顕著に認められることを発見したと発表した。

 GLUT1欠損症は脳へのグルコース輸送障害によって生じる希少な神経疾患で、てんかん発作や運動障害などを主症状とする。今回の成果は、性差を考慮した病態理解や、患者の病態に応じた個別化治療戦略の検討に役立つ可能性があるとしている。

メス個体に限定した糖代謝・インスリン変化を確認

 理研バイオリソース研究センター マウス表現型研究開発室の古瀬民生上級研究員、田村勝室長らの研究チームは、Slc2a1遺伝子に変異を持つGLUT1欠損症モデルマウス(系統名:B6(D2)-Slc2a1/1Rbrc)を対象に、日本マウスクリニック(JMC)事業のパイプライン検査を用いた網羅的表現型解析を実施した。その結果、モデルマウスのメス個体では、グルコース投与後の血糖値上昇が対照群よりも抑制されていることが明らかになった。

 同時に、グルコース投与15分後の血漿中インスリン濃度を測定したところ、このメス個体では対照群と比較してインスリン濃度が上昇していた。血糖値はほぼ正常であることが知られるGLUT1欠損症において、食後の血糖変動に相当するグルコース投与後の反応やインスリン動態については、これまで十分に調べられていなかったという。研究チームは、血糖値調節の変化にインスリン動態の変化が関与している可能性を示したとしている。

 また、体重はオス個体で減少した一方でメス個体では変化がみられず、体脂肪率はメス個体のみで増加するなど、複数の検査項目で性差が確認された。本研究成果は、科学雑誌『Disease Models & Mechanisms』オンライン版(9月21日付)に掲載された。

GLUT1欠損症の診断・治療の現状とモデルマウスの位置づけ

 GLUT1欠損症は、血液中のグルコースを脳へ運ぶ輸送体タンパク質であるGLUT1の機能低下によって、乳幼児期からさまざまな神経症状が現れる疾患である。主にSLC2A1遺伝子の変異により発症し、てんかん発作、発作性の運動異常、運動機能の低下、発達遅滞、知的障害などを引き起こすが、患者ごとに現れる症状や重症度には個人差があることが知られている。厚生労働省が定める指定難病の一つに位置づけられている。

 現在の標準治療はケトン食療法で、脂肪の分解によって生じるケトン体を脳の代替エネルギー源として利用することで症状の改善を図る。ただしその効果には個人差があり、新たな治療法の開発とともに、患者ごとの病態に応じた個別化治療戦略の確立が求められている。研究チームはこれまでにGLUT1欠損症モデルマウスを開発し、てんかん発作や歩調異常、脳脊髄液中のグルコース濃度低下などヒトの病態に類似した特徴を報告してきた。このモデルマウスは理研バイオリソース研究センター実験動物開発室を通じて国内外の研究者に提供されている。

 研究チームは今回、特定分野に限定されがちな疾患モデル動物の解析を、人間ドックのように幅広い生体機能を対象として行った。今回得られた知見は、米国で臨床試験が進められているインスリン関連経路を標的とした治療戦略を支持する基礎的知見としても位置づけられるとしている。

事実関係の整理

  • 情報の種類:研究発表(モデルマウスを用いた網羅的表現型解析)
  • 発表元:理化学研究所 バイオリソース研究センター マウス表現型研究開発室
  • 対象:Slc2a1遺伝子変異を持つGLUT1欠損症モデルマウス(系統名:B6(D2)-Slc2a1/1Rbrc)
  • 主要結果:メス個体のみグルコース投与後の血糖上昇抑制とインスリン濃度上昇、体重・体脂肪率にも性差を確認
  • 掲載誌:『Disease Models & Mechanisms』オンライン版(9月21日付)
  • 研究支援:GLUT1 Deficiency Foundation(米国)の研究助成

参考文献


ARCHIVE

新着記事

日本での医療や観光から探す

研究や開発から探す

関連の国から探す

関連の制度から探す