東京大学など、ウェアラブル端末とたんぱく質補給食品を組み合わせた高齢者向け生活習慣介入で認知機能スコア改善を確認
東京大学大学院新領域創成科学研究科の研究グループは、Google、日本ハム株式会社、三井不動産株式会社との産学連携により、フレイルリスクのある地域在住高齢者を対象とした臨床試験「INSPIOR」を実施したと発表した。
ウェアラブル端末による運動・睡眠の自動通知とたんぱく質補給食品を組み合わせた6カ月間の介入により、認知機能スクリーニング(MoCA)スコアの改善傾向が確認されたという。
複合介入によるMoCAスコアと行動変容の変化
東京大学大学院新領域創成科学研究科の久恒辰博准教授らの研究グループは、Google、日本ハム株式会社、三井不動産株式会社との4者連携により、臨床試験「INSPIOR(Impact of Nutrition, Sleep, Physical activity on Intellectual function of Older Adults)」を実施したと発表した。千葉県柏市の「柏の葉スマートシティー」の地域基盤を活用し、65歳から92歳の自立した生活を送る高齢者のうち、低BMI、プレフレイル・フレイル、握力・歩行速度・筋肉量などから機能低下リスクに該当する355名を、介入群178名と対照群(評価のみ)177名に無作為に割り付ける単施設・オープンラベルのランダム化比較試験として実施した。
介入群は、Googleのウェアラブル端末「Fitbit Charge 5」を6カ月間、睡眠時を含めて着用し、端末から自動取得された歩数・運動時間・睡眠データに基づき、スマートフォンへ目標設定や生活習慣改善のアドバイスが自動で通知された。あわせて、食事管理アプリ「あすけん」による食事入力(消費エネルギーあたり15〜20%のたんぱく質摂取を推奨)と、アンセリン等を含むたんぱく質補給食品の配布による栄養サポートが行われた。主要評価項目は、開始時および6カ月後のMoCAによる認知機能検査とされた。
2023年11月から2024年6月にかけての介入の結果、すべての研究参加者を対象としたITT解析において、介入群は対照群と比較してMoCAスコアで有意な改善を示した(調整平均差+0.58点、p=0.039)。介入前後の検査値がそろった参加者を対象とするFAS解析、介入項目を順守した参加者を対象とするPP解析でも数値的な改善が見られ、特にPP解析では改善度が顕著だった(p=0.0013)。フレイルポイントについても、いずれの解析方法でも介入による改善が確認されたとしている。
行動ログの解析では、介入群で歩数・活動時間・睡眠習慣の維持・向上が認められ、運動・活動量の変化とMoCAスコアの変化に正の関連が確認された(p=0.0086)。介入群は対照群と比較して、1日あたり平均で歩数が696歩、運動時間が6.6分、睡眠時間が11.6分多かったという。また、食事記録を順守した参加者ではたんぱく質摂取量が平均7.97グラム増加し(p<0.0001)、フレイル指標の改善につながったと報告されている。重篤な有害事象は報告されていないとしている。
対面指導に依存しない予防モデルという位置づけ
高齢化が進む中で、運動・睡眠・食事といった生活習慣の改善を通じた認知機能低下の抑制が注目されてきた。一方で、従来の生活習慣改善プログラムの多くは医師や管理栄養士といった専門職による個別の対面指導を前提としており、人員や費用の制約から地域社会全体への大規模な展開が難しいという課題があったという。
今回の研究グループは、こうした課題を踏まえ、専門職による対面指導を介さず、ウェアラブル端末からの自動通知とたんぱく質補給食品の提供という形で、自律的な生活習慣改善を促すアプローチの可能性を検証した。本試験は、参画各社・機関の強みを組み合わせた産学連携で構成されており、Google合同会社がウェアラブル端末による行動データの取得と自動通知の仕組みを、日本ハム株式会社がたんぱく質補給食品の開発・提供と栄養記録アプリを活用したサポート環境を、三井不動産株式会社が柏の葉スマートシティーの地域基盤「まちの健康研究所「あ・し・た」」を活用した介入実施環境を、それぞれ担ったとされる。
研究グループは、今後、本プログラムの長期的な有効性やコスト対効果を検証するとともに、自治体や民間サービスへの社会実装を進める方針を示している。研究成果は学術誌『eClinicalMedicine』に掲載された。
事実関係の整理
- 情報の種類:産学連携臨床試験の研究発表
- 発表主体:東京大学大学院新領域創成科学研究科、Google、日本ハム株式会社、三井不動産株式会社
- 対象:柏市在住のフレイルリスクのある高齢者355名(介入群178名、対照群177名)、65~92歳
- 試験デザイン:単施設・オープンラベルのランダム化比較試験、6カ月間の介入
- 主要指標:MoCAスコア(主要評価項目)、フレイルポイント、歩数・活動時間・睡眠時間、たんぱく質摂取量
- 主な結果:ITT解析でMoCAスコアの調整平均差+0.58点(p=0.039)、重篤な有害事象の報告なし
- 掲載誌:eClinicalMedicine(DOI: 10.1016/j.eclinm.2026.104212)
参考文献