京都大学iPS細胞研究所、家族性ALSのSOD1遺伝子変異をプライム編集と塩基編集で修正する条件を検討
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)などの研究グループが、家族性筋萎縮性側索硬化症(家族性ALS)の原因となるSOD1遺伝子の変異を、一塩基単位で修正する方法をヒトiPS細胞で検討した。
2種類の変異(G93A変異、L126S変異)それぞれの配列特性に応じてプライム編集と塩基編集を使い分け、複数の設計条件を比較することで修正効率を高める条件を選び出した。
2種類のSOD1遺伝子変異を異なる編集法で修正
今村恵子(CiRA、理化学研究所バイオリソース研究センター)、西田敬二(神戸大学先端バイオ工学研究センター)、ウォルツェン・クヌート(CiRA)、和泉唯信(徳島大学大学院医歯薬学研究部)、井上治久(CiRA、理研バイオリソース研究センター)らの研究グループは、家族性ALSの原因となるSOD1遺伝子変異を一塩基単位で修正する方法を、ヒトiPS細胞を用いて検討したと発表した。
対象としたのは、SOD1タンパク質の93番目のアミノ酸がグリシンからアラニンに変わるG93A変異と、126番目のロイシンがセリンに変わるL126S変異の2種類である。G93A変異は現在の一般的な塩基編集では直接修正できない種類の塩基変化であるため、修正後の配列情報を組み込んだガイドRNA(pegRNA)とプライム編集酵素を用いた。ヒトiPS細胞で標的配列の長さなどが異なる複数のpegRNAを比較した結果、最適な組み合わせで約10%の修正効率が得られ、標的周辺に明らかな余分な塩基置換は認められなかったと報告している。同じ編集条件をヒトSOD1遺伝子のG93A変異をもつALSモデルマウス由来iPS細胞でも試したところ、同様に約10%の修正効率を示したという。
一方、塩基編集によって変異箇所のシトシン塩基を正常配列へ戻せる種類の変異であるL126S変異については、患者由来iPS細胞を用い、3種類の塩基編集酵素(BE4、YE1、AID2S)と2種類のガイドRNAを組み合わせて比較した。その結果、BE4とガイドRNA 2の組み合わせが最も高い効果を示し、変異アレルの約26%を正常配列へ修正したと報告している。未編集細胞では正常型と変異型の割合がほぼ50%ずつであり、正常型の割合が約13%増えたことから、変異アレルの約26%が修正されたと算出したとしている。
ゲノム編集では標的以外の似た配列が意図せず書き換えられるオフターゲット編集が課題となる。研究グループはコンピューターで予測した候補部位を次世代シーケンサーで解析したところ、プライム編集・塩基編集のいずれについても、未編集細胞の背景レベルを超える編集は検出されなかったとしている。ただし、今回の解析ですべての可能性を除外できるわけではなく、臨床応用にはより包括的な安全性評価が必要であるとしている。
SOD1遺伝子変異と既存の治療研究との位置づけ
ALSは、脳や脊髄にある運動ニューロンが徐々に失われ、手足や呼吸に必要な筋肉が動かしにくくなる神経疾患である。約10%は遺伝的要因が明らかな家族性ALSとされ、日本では家族性ALSの約30%をSOD1遺伝子変異が占めると報告されている。SOD1遺伝子から作られるSOD1タンパク質は通常、活性酸素を処理して細胞を酸化ストレスから守る働きを担うが、特定の変異をもつSOD1タンパク質は神経細胞に有害な性質を獲得し、運動ニューロンの変性につながると考えられている。
こうした背景から、変異型SOD1タンパク質の産生そのものを抑える核酸医薬などの開発が進められてきた。一方で、SOD1タンパク質がもつ正常な働きを失うこと自体が運動機能に影響する可能性も報告されており、変異型だけを修正して正常なSOD1タンパク質の働きを保つ治療戦略には意義があるとされる。従来のCRISPR-Cas9によるゲノム編集はDNAの二本鎖を切断して修復を促す方式であるのに対し、塩基編集とプライム編集はDNAを二本鎖切断せずに塩基配列を書き換えられる技術である。ただし、変異の種類や周囲のDNA配列によって利用できる編集法や効率は異なるため、研究グループはヒトiPS細胞を用いて多数の設計を比較し、変異ごとに適した編集条件を選び出したとしている。
事実関係の整理
- 情報の種類:研究発表(iPS細胞を用いたゲノム編集研究)
- 発表元:京都大学iPS細胞研究所(CiRA)、理化学研究所バイオリソース研究センター、神戸大学先端バイオ工学研究センター、徳島大学大学院医歯薬学研究部
- 対象:家族性ALSの原因となるSOD1遺伝子のG93A変異・L126S変異、患者由来iPS細胞、ALSモデルマウス由来iPS細胞
- 主要指標:プライム編集によるG93A変異の修正効率(約10%)、塩基編集によるL126S変異アレルの修正効率(約26%)、予測オフターゲット候補部位の編集有無
- 留意点:解析は予測されたオフターゲット候補部位に限られ、すべての可能性を除外できるものではなく、臨床応用には今後の安全性評価や細胞機能の確認が必要とされる
参考文献